復帰のめど立たず 休演を予測させた最後の「海老蔵歌舞伎」
夜の部は古典の名作「義経千本桜」の新演出で、「星合世十三團(ほしあわせじゅうさんだん)」と名付ける。13代目團十郎になるのにちなんでのタイトルで、13役を早替わり、劇中で宙乗りを2回披露。
「義経千本桜」は通しで上演すると、昼の部・夜の部とかかるが、それを夜の部だけで上演する。コンセプトは〈分かりやすいストーリー〉と〈飽きさせないテンポ〉。「義経千本桜」を何度も見ている人は「ここはこう変えたか」「こういうやり方もあるの」という興味で見ることができるし、初めて見る人には、「こういう話なんだ」とストーリーそのもので楽しませる。
昼の部は4本立て。市川家ゆかりのものが3つで、堀越勸玄が出る「外郎売」が話題。「海老蔵の子、かわいい」という次元を超えていて、ひとりの「小さな役者」として舞台に立っている。16、17の両日は父・海老蔵が不在のなか、その父のセリフまで担い、「代役」をつとめきった。
「西郷と豚姫」は市川家とは関係がない芝居で、錦之助の西郷、獅童のお玉。錦之助では西郷を演じるには線が細いだろうと思っていたが、胆力を感じさせ、この人ならではの繊細さと陰影のある西郷となっている。獅童の女形は、登場したときこそ客席から笑いが出てしまったが、情のある女性をしっとりと演じ、いつしか笑いも消えた。2人にとって、飛躍となった。萬屋再興を目指してほしい。
(作家・中川右介)