著者のコラム一覧
大高宏雄映画ジャーナリスト

1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。1992年からは独立系を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を発足し、主宰する。著書は「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など。

「ひとよ」から考察 役者が白石和彌作品に出たがる理由

公開日: 更新日:

「ノッている」とは、映画界ではこの人のことをいうのだろう。白石和彌監督だ。「麻雀放浪記2020」「凪待ち」に次いで、今年3本目の「ひとよ」(日活配給)が公開中だ。いずれも演出のボルテージが高い。もちろん、内容はそれぞれ異なるが、大きな魅力のひとつは共通している。俳優から、新境地を引き出す監督の力量が抜きんでているのだ。

 新作の「ひとよ」を見てみよう。主役クラスの俳優たちが顔を揃えているのが目を引く。佐藤健鈴木亮平松岡茉優佐々木蔵之介に加えて、田中裕子といった面々だ。映画は父から虐待を受ける子ども3人と母の話を追っていく。傷つく子どもたちを思い、母は夫を死に至らしめる。15年後、大人になった彼らはどうなっているのか。

 佐藤、鈴木、松岡が大人に成長した子ども3人、その母を田中が演じる。佐々木は鈴木がかかわるタクシー会社に就職するワケあり男だ。虐待という重いテーマの問題作なのに、どこかワクワクして見てしまう。それは俳優たちが、自身の演技の振幅を思う存分に広げようとしているからに他ならない。

「誇らしく」罪を犯したという信念をもつ母の思いと、虐待をめぐる母の殺人がどうにも割り切れない息子たちの感情が交差する。淡々とした母に対し、彼らはときに気持ちを高ぶらせる。15年の思いの丈が爆発するといっていい。俳優たちの見せ場だ。重いテーマの深淵に、身体から飛び出す激情の表現という演技の芯が顔をのぞかせる。

 白石監督の作品に俳優たちが出演したがる理由が分かった。商業主義が徹底化した今の芸能界で、激情する人間表現が至るところで封印されているからだ。俳優たちは、固定しがちな自身の枠を破りたいと考えているに違いない。「ひとよ」から、それが見えてくる。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人原前監督が“愛弟子”阿部監督1年目Vに4日間も「ノーコメント」だった摩訶不思議

  2. 2

    巨人・阿部監督1年目V目前で唇かむ原前監督…自身は事実上クビで「おいしいとこ取り」された憤まん

  3. 3

    松本人志は勝訴でも「テレビ復帰は困難」と関係者が語るワケ…“シビアな金銭感覚”がアダに

  4. 4

    肺がん「ステージ4」歌手・山川豊さんが胸中吐露…「5年歌えれば、いや3年でもいい」

  5. 5

    貧打広島が今オフ異例のFA参戦へ…狙うは地元出身の安打製造機 歴史的失速でチーム内外から「補強して」

  1. 6

    紀子さま誕生日文書ににじむ長女・眞子さんとの距離…コロナ明けでも里帰りせず心配事は山積み

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    メジャー挑戦、残留、国内移籍…広島・森下、大瀬良、九里の去就問題は三者三様

  4. 9

    かつての大谷が思い描いた「投打の理想」 避けられないと悟った「永遠の課題」とは

  5. 10

    大谷が初めて明かしたメジャーへの思い「自分に年俸30億円、総額200億円の価値?ないでしょうね…」