コロナ禍に揺れた2020年のテレビドラマ界を振り返る
現実社会とリンクした痛快さこそ「半沢」大ヒットの要因
4月に始まるはずだった日曜劇場「半沢直樹」(TBS系)がようやくスタートしたのは7月だ。「お待たせ効果」も加わって、9月27日放送の最終回の世帯平均視聴率(関東地区、ビデオリサーチ調べ)は32・7%に達した。なぜ「半沢直樹」は社会現象ともいえる人気を得たのか。第一に主人公の半沢を演じた堺雅人はもちろん、歌舞伎界や演劇界からの強力な援軍を含む俳優たちの熱演がある。次に福沢克雄ディレクターをはじめとする演出陣の力業も見事だった。しかし見る側を最も引きつけたのは、後半の「帝国航空」をめぐる大物政治家との暗闘ではなかったか。
半沢たちが作成した帝国航空の再建案をつぶし、航空会社と銀行の支配をもくろんだのは与党の箕部幹事長(柄本明)である。ドラマというフィクションの中とはいえ、政権を担う党の幹事長が、ゲームにおける最終的な悪玉「ラスボス」のごとく描かれた点に注目だ。
新型コロナウイルスの影響で明らかに社会が変わってきた。「1億総マスク化」に象徴される閉塞感も続いている。また多数派の意見は一種の「空気」となり、「みんなと同じ」を強要する「同調圧力」を生んでいる。コロナをめぐる「自粛警察」などはその典型だ。
しかし半沢は最後まで自分が信じる理念のもとに行動した。相手が権力者でもひるまない半沢に、留飲を下げた人は多いのではないか。現実社会とリンクした痛快さこそ、見る側がこのドラマに求めたものだったのだ。
来年、ドラマはどうなっていくのか。「リアル」を優先して登場人物全員がマスクを着用した作品が並ぶのか。そういうものを視聴者が見たいと思うのかも含め、制作側は頭が痛いだろう。だが、それ以上に考えなくてはならないのは、現在の社会状況の中でドラマを作ることの意味かもしれない。