<67>「気を付けてね」笑顔で見送るドン・ファンと永遠の別れ
「元気そうやね」
「幸助さんも元気そうで良かったわ」
奥さんはドン・ファンよりも年配のようで、親しく言葉を交わしている。施設はずっと前に倒産したからなのか、奥さんはサバサバした表情だった。
「相当に大きな施設ですよね」
私は感心したように周囲に目をやっていた。
「そうや。創業者は勝算があったから銀行に断られてもワシに頼んできたんや。相当儲けたと思うで」
本館近くには動物を飼っていた名残の檻もあった。その中に翼を広げると2メートルほどにもなるイヌワシが1羽だけ飼われていた。20年ほど前から飼われていたらしく県の飼育許可証も張られていた。せいぜい10メートル四方の檻で、エサを与えられることに馴染んでしまったイヌワシが惨めに見えた。大空を飛んで獲物を見つけなくなったことに満足しているのだろうか? いいや、そんなことはないだろう。檻の前で翼を広げて威嚇する姿を見ながら私は悲しくなった。
20年も檻の中で飼われていたイヌワシが外に出てもエサを取れる保証はない。このまま檻の中で一生を過ごすことに対して人間のエゴを感じざるを得なかった。