追悼・佐藤蛾次郎さん 山田洋次監督が“演出”した「寅さん」での花嫁衣裳と愛妻家秘話
ファミリーの逸話
16年の夏には、妻の元女優、和子さんに先立たれた。享年68。仕事で飛び回り、最期をみとることもできず、「つらかった」と関係者の前で声を震わせた。
「きれいで、明るく、元気で、たくさんの人から慕われた女房でした」
そう言う一方で「おれは女遊びしたり、女房に迷惑かけてきたからね」と繰り返した。
自慢の妻とは「男はつらいよ」シリーズ第10作「寅次郎夢枕」(72年)でのエピソードが有名だ。新婚ほやほやだが、金がなくて結婚式は挙げていないと聞いた山田洋次監督が愛妻に白無垢の花嫁姿で出演するシーンをつくってくれたのだ。
「近所の花嫁が『とらや』へ挨拶に来るという設定でした。撮影後、蛾次郎さんは衣装部から紋付きと袴を着させてもらい、山田監督、渥美清さん、おいちゃんらに見守られての結婚写真と相なった。撮影は篠山紀信さん。監督と渥美さんが頼んでくれたんだそうです。山田組、寅さんファミリーの逸話としても語り継がれています」(前出の映画ライター)
映画では、寅さんが旅先から柴又に帰ってくると「あ、アニキ~」と、掃き掃除のほうきを放り出し、半纏姿の源吉になり切った蛾次郎さんがいち早く出迎えて、軽いコントのようなシーンが始まる。お盆と正月公開だったシリーズではお馴染みで、観客はめぐりゆく季節を感じたものだ。
蛾次郎さんの遺体には外傷もなく、入浴中に旅立ったとみられている。天国で寅さんと再会して、どんな言葉を掛けられているのか、往年のファンは想像してしまう。