三月大歌舞伎で息子・松本幸四郎が40年ぶりに挑む「花の御所始末」
前半は、染五郎演じる若者の悲劇が印象に残った。
第二部は中村芝翫が『仮名手本忠臣蔵』の十段目で、主役の天川屋義平を演じている。これも歌舞伎座では1965年以来、58年ぶり(国立劇場では2016年に上演された)。もう一本は尾上松緑と中村鴈治郎の『身替座禅』で、これは毎年のように上演されている。
■問題作は「髑髏尼」
問題作は第三部の『髑髏尼(どくろに)』だ。坂東玉三郎が主演と演出。タイトルからして禍々しい。
平家滅亡後の物語で、反戦というよりも厭戦の色が濃厚だ。まるで、いまのウクライナの戦争を受けて書かれた新作のように見えてしまうが、1917年に初演されたもの。作者は歌人でもあった吉井勇で、その後、1933年と1962年に上演されただけで、61年ぶりの上演となった。
玉三郎が演じるのは平重衡の正妻で、夫と子と死別し、尼になった女性。源氏によって平家関係者が捕まって殺されていくところから始まる。殺戮をストレートには描かない演出が、うまい。見せないことで見せる手法だ。