三月大歌舞伎で息子・松本幸四郎が40年ぶりに挑む「花の御所始末」
3月の歌舞伎座は三部すべてで、数十年ぶりの上演という珍しい演目が並ぶ。
第一部は宇野信夫が1974年に書いた『花の御所始末』。松本白鸚(当時・市川染五郎)のために書いたもので、83年に再演されたものの以後は上演されず、40年ぶりに息子の幸四郎が演じる。
幸四郎は50歳になったが、この役を白鸚が初演したのは31歳だ。信じがたい。そちらを見たくなってしまう(映像などでは残っていない)。
足利六代将軍義教が権謀術数で将軍になるも破滅するまでを、シェイクスピアの『リチャード三世』を重ねて描く。史実とはだいぶ違う、フィクションだ。
幸四郎の義教と、中村芝翫演じる畠山満家がそれぞれの思惑で結託し、どんどん人を陥れて殺していく。陰惨なのだが、喜劇的でもある。
悪の同志の2人が、目的を達成した後は仲間割れするのは、最初から見えている展開で、芝翫がその哀れな悪人を、観客にも嫌われるように演じている。だが芝翫のほうが目立ち、肝心の幸四郎があまり悪人に見えてこないのは、計算してのことなのだろうか。