三月大歌舞伎で息子・松本幸四郎が40年ぶりに挑む「花の御所始末」
中盤、尼は亡き子の髑髏を前にして座し、夫と子の恨みを晴らそうと祈念している。そこに夫・平重衡の亡霊が現れる。これがタイトルの髑髏尼の由来だ。玉三郎の演出は限界まで照明を落とさせ、観客に凝視させる。
後半は『ノートルダムの鐘』のような話。容姿が醜い鐘楼守と尼によるねじれた愛憎劇で、救いのない結末を迎える。
観客は唖然としてしまい、客席には戸惑いの声も出て、拍手もいつもよりおとなしい。拍手を忘れてしまうほど、打ちのめされてしまうのだ。ある意味で、稀有な演劇体験だった。めったに上演されないのも無理はない。
しかし、客を陰鬱な気分のまま帰さないのが、玉三郎だ。『廓文章』で華麗に閉める。
(作家・中川右介)