三浦英之著「太陽の子」、この書き手は愚直なまでに「ペンは剣よりも強し」を信じている
話はそこから、フランスの国際ニュースチャンネル「フランス24」で2010年に実際に配信された映像へと展開する。この本はいわゆる「嬰児殺し」という犯罪についての読みものなのか。ここでそう思い至った読者は、ページをめくる手をいったん止めて表紙に戻り、母親らしき女性に背負われてこちらを不安げに見る幼児を凝視することになるだろう。
中盤を過ぎたあたりで著者は、日本人特派員で最も影響を受けた人物が1970年代の朝日新聞アフリカ特派員だった伊藤正孝であることを明かし、彼が遺した言葉をくり返し引用する。それを読むにおよび、ぼくは自分が三浦さんの書くものに共感を覚える理由がわかった気がした。
じつは1983年、高校1年生のぼくは、その学校の卒業生である伊藤の母校講演を聴いている。テーマは「アフリカから見た日本」。たかだか500年の繁栄を誇っているに過ぎぬ欧米にわれわれは目を奪われすぎではないか、価値観を再編しようじゃないかという呼びかけに、つよく心を揺さぶられ、はげしく感化されたのだった。その後伊藤は筑紫哲也の後を継ぎ朝日ジャーナル編集長に就くなどしたが、1995年、58歳の若さで死去した。