「内なる偏見に気づいたら是正しよう」を否定する人はそういないはずだが…
貧困、無教養、薬物依存、暴力的といったステレオタイプな黒人像を求める白人中心社会を痛烈に批判し、さらには、そんな社会構造を受け容れ、求められる黒人像に応えてビジネス的うまみを得る黒人をも嗤う。ただし、あくまで抑制の効いたタッチで描くのがこの映画の妙味。人種差別だけでなく、ゲイ差別、家父長制の色濃い家族の厄介さも丹念に描いているので、日本人が共感を覚えるポイントも多いはず。自分の頑固な偏見がくっきりあぶり出されるのを楽しむくらいの気持ちで観るのが、最も好ましい鑑賞法だろう。
本作で監督デビューを飾ったのは、人気ドラマシリーズ「マスター・オブ・ゼロ」や「ウォッチメン」に脚本を提供してきたコード・ジェファーソン。ちなみに彼自身は父親が黒人で弁護士、母親は白人という出自だそう。主演は『バスキア』や007シリーズで知られるジェフリー・ライト。インテリをこじらせた主人公を好演してオスカーの主演男優賞候補に挙がっている。
自分が黒人という理由だけで著書が大型書店の〈小説〉ではなく〈アフリカ系アメリカ人(黒人)研究〉のコーナーに置かれていることを知った主人公は、荒れに荒れる。そのシーンが極私的ハイライト。なぜならぼくも3年前、初めての長編小説を〈小説〉ではなく〈音楽書〉のコーナーで発見、憤懣やるかたない思いを味わったから(ジュンク堂書店さん、おたくのことだよ!)。