著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

「やっぱり本物のジョイスさんがいいね」に安堵したビルボードライブ東京の夜

公開日: 更新日:

 NHK紅白歌合戦で歌う〈AI美空ひばり〉に賛否両論が巻き起こったのは、コロナ禍直前の2019年末。あれから4年半、あのAIひばりより格段に自然な声の響きで歌もうまいソフトが、今なら1万円ちょっとで買えます。どれほど歌がうまいかというと、〈仮歌さん〉の素性を知らなかったジョイスが、ライブ当日にぼくから真相を聞かされた瞬間、驚いて白目をむいたほど。「どんな人が歌っているの?」と訊かれるたびに、東京で会わせてあげるよと、ぼくははぐらかし続けてきたのだった。彼女は日本語歌詞を憶えるために、デモを聴き込むのに加えて何度も書き取りをくり返していたそう。そこまで耳に馴染んだ歌声の主がAIだと知ったら、そりゃ驚くよなぁ。ぼくのささやかな〈ドッキリ〉は成功したというわけである。ジョイスは「テクノロジー!」と叫んで笑った。

 先日、酒場で会った音楽とは無縁の御仁にこの歌声合成ソフトの話をしたら「冷凍食品の加工技術は日進月歩、みたいなもんですか」と忌憚のない感想を聞かせてくれた。返答に詰まっていると、御仁は「失礼なたとえでしたか」と申し訳なさそうな表情をみせる。いや、そうではなくて、と返したぼくは、目の前にあった乾き物を指して言った。いちどビーフジャーキーにした牛肉を生に戻す、くらいの試みです。「そんなもの、おいしく食べられますか?」さあ、どうでしょう。ぼくがお茶を濁したところで話題が変わった。

 さて、その日2回行われたジョイスのライブは大盛況だった。「ジョイスさんなら」と父親の関わる仕事をめずらしく観に来たぼくの子どもは、自宅で父親が聴く〈AI仮歌さん〉のデモに耳が慣れている。そんな子たちが「やっぱり本物のジョイスさんがいいね」と満足げなのに深い安堵を覚えたぼくである。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  2. 2

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  3. 3

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  4. 4

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  5. 5

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  1. 6

    広末涼子容疑者は看護師に暴行で逮捕…心理学者・富田隆氏が分析する「奇行」のウラ

  2. 7

    中居正広氏《ジャニーと似てる》白髪姿で再注目!50代が20代に性加害で結婚匂わせのおぞましさ

  3. 8

    広末涼子容疑者「きもちくしてくれて」不倫騒動から2年弱の逮捕劇…前夫が懸念していた“心が壊れるとき”

  4. 9

    佐藤健は9年越しの“不倫示談”バラされトバッチリ…広末涼子所属事務所の完全否定から一転

  5. 10

    やなせたかしさん遺産を巡るナゾと驚きの金銭感覚…今田美桜主演のNHK朝ドラ「あんぱん」で注目

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    広末涼子容疑者は看護師に暴行で逮捕…心理学者・富田隆氏が分析する「奇行」のウラ

  2. 2

    広末涼子容疑者「きもちくしてくれて」不倫騒動から2年弱の逮捕劇…前夫が懸念していた“心が壊れるとき”

  3. 3

    中居正広氏《ジャニーと似てる》白髪姿で再注目!50代が20代に性加害で結婚匂わせのおぞましさ

  4. 4

    広末涼子は免許証不所持で事故?→看護師暴行で芸能活動自粛…そのときW不倫騒動の鳥羽周作氏は

  5. 5

    佐藤健は9年越しの“不倫示談”バラされトバッチリ…広末涼子所属事務所の完全否定から一転

  1. 6

    【い】井上忠夫(いのうえ・ただお)

  2. 7

    広末涼子“密着番組”を放送したフジテレビの間の悪さ…《怖いものなし》の制作姿勢に厳しい声 

  3. 8

    中居正広氏は元フジテレビ女性アナへの“性暴力”で引退…元TOKIO山口達也氏「何もしないなら帰れ」との違い

  4. 9

    大阪万博は開幕直前でも課題山積なのに危機感ゼロ!「赤字は心配ない」豪語に漂う超楽観主義

  5. 10

    カブス鈴木誠也「夏の強さ」を育んだ『巨人の星』さながら実父の仰天スパルタ野球教育