「私の心の中にある『故郷』は誰にも譲れない」に心を揺さぶられ、「帰郷」の歌詞を急遽朗読した
ぼくがこの訴訟を知ったのは、記者会見から10日後。本連載を単行本化した『おれの歌を止めるな』(講談社)のプロモーションでYouTube番組『デモクラシータイムス』に出演した際、収録後のスタジオで司会の池田香代子さん(ベストセラー『世界がもし100人の村だったら』でも知られるドイツ語翻訳家)から「松尾さんは福岡の修猷館高校のご出身ですよね?」と訊かれた。ええそうですよ、と答えたら「修猷館の同窓生のあいだで裁判が始まるのをご存じですか」と意外すぎる言葉が返ってきたのである。それからYouTubeにアップされていた先述の記者会見を見て、ようやく事件の概要を知る。怒り、悲しみ、そして恐怖。それらがないまぜになった感情が沸きあがってくるのを抑えることができなかった。
面識もないまま、金さんとメールをやりとりした。話しぶり同様、痛ましいことを綴るときでも筆致からはどこか涼しげな印象が漂う。深い知性としなやかな感性、高い言語化能力に起因するのは明らかだった。そんな人の懊悩はいかばかりか。自分が金さんに人間的興味を抱きはじめていることに気づいたぼくは、口頭弁論をこの目と耳で確かめたくなったのである。