窓辺に腰掛け、月を見ながら「俺は情けねえな」と呟いた
「あなた、やっぱり、俳優には向いてないよ」
言葉も出ないままうつむいていると、「役者を辞めて、マネジャーになりなよ。みんな、あなたのこと好きだって言うし。映画のプロデュースもできるし。そしたら、いずれウチの社長をやってもらうから。どう?」と畳みかけてくる。
こんな時は頭が真っ白になってしまう。とはいえ、口をついて出てきたのはこんなセリフだ。
「1年だけ待ってもらえませんか? 確かにこのところ、仕事に集中していないこともありました。あと1年、死ぬ気でやってみますから。どうか、もう1年、待ってもらえませんか? で、来年の9月30日、ダメだったらすっぱり辞めますからお願いします」
本間社長は渋々OKしてくれた。その夜、アパートに帰ると、月が出ていた。ふだんは月など気にも留めないが、その月のことは覚えている。満月だったとか、美しかったからではない。窓辺に腰掛け、月を見ながら、つくづく「俺は情けねえな」と思ったのだ。月に向かって独り言を言う。月しか相手にしてくれない。こういう時の月は便利なものだ。
とはいえ、あと1年と約束してしまった。もう一度、死に物狂いでやるしかない。そう心に誓った。転機が訪れたのは翌年の夏である。