「あなたの人生を書きたい」と伝えると、テレサは「中国と闘う」と宣言した
テレサ・テン(鄧麗君)がタイのチェンマイで亡くなったのは1995年5月8日だ。日本では地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教の麻原彰晃が逮捕される8日前のことである。私は麹町の日本テレビから赤坂にあるTBS(東京放送)に向かっていた。その車中でテレサが亡くなったという知人からの知らせを聞いた。「本当なのか?」と半信半疑だった。しかし「遺体の映像も放映されている」と知人は言う。テレサは1953年1月29日生まれの42歳。それまでも何度か「死亡説」が世界を駆け巡ったことがある。父親の鄧枢が1990年に脳溢血で亡くなった時も、テレサは葬儀に姿を見せず、臆測が広がった。「死亡説」まで報道された。
しかし、実際は香港からパリに移住したテレサは腎臓病で入院していた。重い風邪も重なり、葬儀に行くのを断念したのだ。
だからこそ、この訃報もにわかには信じられなかったのである。
私は1994年10月24日に仙台で収録されたNHKの「歌謡チャリティーコンサート」の収録にテレサが出演した時、楽屋で「あなたの人生を本に書きたい」と伝えていた。体調が悪いことは見た目にも明らかだったが、彼女は「光栄です」と言うと、意外な言葉を続けた。