「あなたの人生を書きたい」と伝えると、テレサは「中国と闘う」と宣言した
「私のこれからの人生は中国と闘うことです」
この時は真意をはかりかねて驚いたが、その後、取材をすすめるにつれ、テレサの並々ならぬ決意を理解できるようになった。そのテレサが亡くなったというのは本当なのか。TBSに到着するや、報道フロアに向かった。海外担当の記者に聞くと「映像もある」という。見せてもらうと、そこには横たわったテレサがいた。遺体を公共の放送にのせるのは人権問題だと思ったが、これは現地の映像でタイのチェンマイ警察の判断なのだろう。現実を認めないわけにはいかなかった。
この年、3月22日にオウム真理教への強制捜査が入ると、テレビも新聞、週刊誌もオウム報道一色に染まった。「今週の羽賀研二」といったコーナーまであったワイドショーからも芸能ものは姿を消した。それでもテレサ・テンの若すぎる死は、取り上げられた。日本でも多くのテレサファンがいたからだ。カラオケの演歌部門では、常にベストテンに入り、死後の1年間にも「つぐない」は約300万回も歌われた。8000人ほどが日本のどこかで毎日この曲を歌っていたことになる。そのほかにも「時の流れに身をまかせ」「別れの予感」「愛人」などヒット曲が多かったので、日本全国で彼女の曲を歌う人がいた。その人気は今もすさまじく、業務用カラオケ通信の「JOYSOUND」によると2024年の「演歌・歌謡曲ランキング」でテレサの「時の流れ──」は2位、「つぐない」は4位、「別れの予感」が20位だ。