吉本退所でも…令和ロマンくるまの謝罪は“最適解”だった。批判される「松本人志の復帰」との対比で見えたもの
令和ロマン・くるまの吉本退所に衝撃
令和ロマン・高比良くるま(30)が吉本興業との契約終了を発表した。オンラインカジノ疑惑が持ち上がった際にくるまが事前に相談せず謝罪動画を公開したことで、吉本側と信頼関係が壊れたことが契約終了の原因だと報じられている。
くるまの契約終了が表に出ると同時に、コンテンツ配信での復帰が決まっているダウンタウン松本にも批判が殺到した。
そこで今回は、かつて年間100本以上のライブに出演し、自身もライブ主催者の経験もあるという現役の芸人・帽子田が、「令和ロマンくるまの退所」と「ダウンタウン松本の復帰」について解説する。
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くるまの謝罪動画は「最適解」だった
「くるまが吉本をクビになった」というニュースは芸人界にとって衝撃的だった。僕は以前のコラムで「くるまが主導で退所することはあっても、吉本が切ることは絶対にない」と書いたが、全くの間違いになってしまった。でもあの時はそれが芸人界の総意だったと思う。
今回の契約終了はオンラインカジノに関与した云々を問われたわけではないようで、どうやら「勝手に謝罪動画を出した」ということが吉本側の逆鱗に触れてしまったらしい。
ようやく復帰したくるまが自身の口で説明しているが、要するに「最初は吉本に戻るつもりだったが、やんわりと退所を迫られて受け入れられてしまった」と語っていた。
では、あの「くるまの謝罪動画は悪手だったのか?」という疑問には、僕は首をひねらざるを得ない。正直あの時点ではくるまの対応はお笑いファンの視点から見ると、最適解だった気がする。
カリスマ・令和ロマンも「切れる程度のタレント」だったのか
同じ渦中にいたダイタクや9番街レトロなかむら★しゅんは、すぐに謹慎が決まったので、本人からのコメントがなかった。それに対して、あまり状況も分かっていないファンは非常に不安になってしまっていて、外野ながら「きちんと本人の口から謝罪させてあげればいいのに」とハラハラしてしまった。
その点、即座に謝罪動画をあげたくるまは誠実だと思ったし、ファンもそのように感じている人が多かった。ただ、令和ロマンの功績を持ってしても、吉本的には勝手な行動が一発アウトだったというのは驚きだ。
令和ロマンはお笑い史における重大な登場人物であることは間違いない。M-1優勝はもちろん、吉本の養成所や大学お笑いには令和ロマンに憧れている後輩であふれているし、一時代を築いたと言っても過言ではない。
芸人やお笑いファンも令和ロマンをカリスマ視しているから、「こんなすごい令和ロマンを切るわけがない!」と思い込んでいたが、吉本からすると「言うことを聞かないのであれば切れる程度のタレント」だったという認識の差があったのだ。非常に悲しいことに。
一方、2人まとめて退所しない冷静さ
そんな中、相方である松井ケムリは残留というから驚きだ。一方が契約終了、一方が契約続行というケースは前例がたくさんある(雨上がり決死隊、ロンドンブーツ1号2号など)。
これまでのコンビと違うのは令和ロマンの一番の強みは「漫才」で、漫才が強いということは「絶対セット売り」のコンビであるということ。コンビ売りがマストなのに、このような契約形態に落ち着いたのがとても不思議だ。
とりあえず今まで通りコンビで活動するだろうし、レギュラーの仕事も続けたいから、「ケムリだけ所属」というのが落とし所だったのだろうか。
もしそうだとしたら、勢いに任せて二人まとめて退所したりしないあたり冷静だなという印象だ。きっと吉本の対応に落胆したり、ムカついたりしたはずなのに、仕事に関わる周囲の人や今後のことを考えて決断したのだろう。
ダウンタウン松本復帰への批判もあるが…
この話題とともに炎上したのが、「ダウンタウン松本復帰問題」だ。松本さんは今年の夏くらいに、インターネットの配信サービス「ダウンタウンチャンネル(仮称)」で復活予定らしい。ダウンタウンのファンは大歓喜だが、一方で批判的な視線も根強い。
特に若い層のお笑いファンは怒っている人が多めで、「令和ロマンは『言うことを聞かない』だけで切るのに、まだ問題が解決していない松本を丁重に扱うのか!」と激論になっている。
松本さんの復活を批判するSNSの声をまとめると、「松本の方が一般的に糾弾されるべきなのに、これから未来がある令和ロマンを切るなんて会社としてキモい」という論調らしい。
これに関しては僕は吉本側の気持ちがなんとなく分かってしまう。いま吉本の上層部というか偉い人はダウンタウンと一緒に芸能界を駆け上がってきたメンツで、ダウンタウンが社会に与えた影響も、会社にもたらした莫大な利益も身を持って実感した世代だ。
そりゃあ天秤にかけたら、若手のくるまより松本さんを取るよなと素直に思ってしまう。
吉本の圧倒的な強さを感じた
ネットのコメントでは「吉本の言うことを聞かないくるまを切るのは企業として当然」という指摘もあったが、個人的には「将来性や社会の論調を無視して、松本さんを取るのは企業というより人間的だな」と感じた。
何はともあれ、個人的に一番この騒動で痛感したのはお笑い界における吉本の圧倒的強さ。令和ロマンくるまを切ったとして、替えになるタレントや後継になり得る後輩がたくさんいる。他の事務所だったら令和ロマンを絶対に切れないので、「吉本はすごいな」とここまでくると感心する。
くるまも会社という枷がなくなったので、これからは好きなことを自由度高くたくさんできると思う。くるまは吉本愛に満ち溢れるタイプの芸人だったが、それが枷になることもあっただろう。枷のないくるまが何をやってくれるのか。お笑いファンとしてはとても楽しみだ。
(帽子田/芸人、ライター)