前立腺がん・大腸がん<3>「手術室のそばから離れないで」
元銀行員だった吉田さんは退職後、大手の派遣業会社に勤務していた。「死ぬ時は布団の上ではなく、仕事で道を歩いているとき」と言うほどの仕事人間である。
■今度は腹膜播種が見つかった
職務が順調に拡大していた11月、画像診断などの精密検査で今度は「腹膜播種」が見つかった。目下、有数の医療機関で治療法が研究されている腹膜播種は、種がバラバラにまかれたようにがん細胞が肝臓などの壁を突き破って腹膜に広がった病状だ。腹膜は、臓器を覆っている半透明の膜を指す。
吉田さんは点滴による抗がん剤治療(アパスチン)を始めた。そのために小さな手術を行い、胸に100円硬貨大の「CVポート」を設置した。
「皮下埋め込み型ポート」とも呼ばれる中心静脈カテーテルだ。日常生活に支障はない。4クール(1クール、21日間)まで行った。
60歳のときに「前立腺がん」を告知され(現在もホルモン療法による治療中)、63歳で2度目のがん「大腸がん」を告げられた。そして今度は「腹膜播種」である。
まさに心身ともズタズタだった。それでも、入院治療はこれで終わらなかった。抗がん剤副作用との闘いが待っていた。