誰ともしゃべらなかった患者さんを満開の桜の木の下に連れていくと…
桜はすっかり散ってしまいましたが、この季節になると思い浮かぶ患者さんがいます。当時85歳で、79歳のときに肝臓がんの手術を受けたAさん(男性)です。
手術後、Aさんはずっとひとり暮らしを続けていましたが、6年ほど経って食事が取れなくなり、病院に入院。超音波の検査で肝臓に大きな腫瘍が見つかりました。そのことを知ったAさんは、「これ以上の検査はしない。医療的な処置は望まない」と希望され、息子さんも同意したことで介護施設に移りました。
施設に入ったときから、Aさんはコーヒーやお茶はよく飲まれていたのですが、食事はほんのわずか箸をつける程度でした。
そして、ほとんど誰ともしゃべることはなく、テレビやラジオもつけずに個室で黙って日々を過ごされています。患者さんの憩いの場になっているデイルームに行くことも拒否していて、看護師が血圧を測るのも嫌がっているようでした。ただ、幸いなことに、痛みはなさそうでした。
「こんにちは」
■初めて見る笑顔で握手を求められた