誰ともしゃべらなかった患者さんを満開の桜の木の下に連れていくと…
桜の花も散って葉が生えてきた頃、Aさんは血圧が下がって意識がなくなりました。駆けつけた息子さんが「お酒を飲ませてやりたかった……」と、意識のないAさんの唇をガーゼに浸したお酒で濡らした光景を今も思い出します。
Aさんが、ひとりで何を考えていらしたのかは分かりません。黙って死とジッと向き合っていたのでしょうか。私は、どんな死であろうと優劣などは全くないと思っています。ただ、そのような最期を過ごされたAさんという患者さんがいた。私にはとてもできそうにありません。
花びらが散って、たくさん葉が生えてきた桜の大木を見て、その中でAさんが笑っているような気がします。