【アスパラガスのグラタン】チーズの塩分だけで春の甘さを
最も充実した生を送っている瞬間のアスパラギン酸
「旬(しゅん)」とは、その食材がもっともおいしく食べられる時期のことを指す。そして食材とは、それが動物性にせよ、植物性にせよ、すべて生物に由来するものであるから、もっともおいしい時期とは、その生命体がもっとも充実した生を送っている瞬間、ということになる。
そして月の上旬、中旬、下旬というとおり、本来旬は10日間を意味する。輝ける時は短いのだ。私たちはそれをいただくわけだから、まずは自然に対する感謝と畏敬の念が必要である。
さて、今回の旬の食材はアスパラガス。この名前は「新芽」を意味するラテン語に由来する。植物が、まさに今、芽吹くための栄養素を一身につくり出している時だ。うま味を呈するアミノ酸にアスパラギン酸がある。アスパラガスから発見されたゆえである。ほろ苦い、しかし深みのあるアスパラガスのおいしさの秘密は、たっぷり含まれているアスパラギン酸をはじめとするアミノ酸の風味に由来するところが大きい。新たな春の訪れとともに旬のおいしさを味わいたい。
(福岡伸一)
▽福岡伸一(ふくおか・しんいち) 1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。
▽松田美智子(まつだ・みちこ) 女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事」「調味料の効能と料理法」など。