白血病と闘う能楽師の武田文志さん「医学の進歩を知った」
週明けの検査で慢性骨髄性と確定し、18日間の入院を経て寛解のお墨付きをいただき、退院したのが11月6日。舞台は11月30日でした。主治医は入院当初から「自分が大丈夫だと思ったならOK」とおっしゃいましたが、能はハードスポーツ並みの消耗をしますから、非常に慎重に考えました。
■先生から話を聞くまでは「死」もちらついた
でも、退院から2日後に試しに少し動いてみたら、ウソのように疲れ知らずで一曲舞い終えてしまったので、我ながら驚きました。というのも、病気発覚前の数カ月はとても疲れやすくて、一曲舞うとヘトヘトになって座り込んでいたのです。半分冗談で「年のせい」にしていましたが、「ああ、病気だったんだなあ」と実感しました。お客さまには白血病を包み隠さず公表し、直前での降板もあり得ることをお知らせしましたが、結果的には無事に舞台を務めることができました。
先生からお話を聞くまでは「死」もちらつきました。でも、私の根本には「いついかなるときも怖いのは2次災害だ」という考え方があり、それが幸いしました。ここでいう2次災害は、精神的に病むことです。私が実践した回避法は、まずは自分を優先して考えたこと。常識やしがらみをいったんよけて、自分の気持ちに正直になったのです。頭に浮かんできたのは能のことばかりでした。以来、「今生は能に捧げた人生」と言っています。