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名郷直樹「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

人種差を問題にしつつ「動物データ」に納得する不思議さ

公開日: 更新日:

 人種の問題というのはわかりやすいだけに、よく話題になる。今から30年以上前の「根拠に基づく医療」(EBM)の黎明期にも最もよく議論されたことのひとつである。欧米のデータが日本人に当てはまるかと声を大きくする人たちがたくさんいて、その大部分が動物実験や試験管内の実験で基礎研究を中心に行っている人たちだった。「動物のデータは人間にそもそも当てはまらないでしょう」と反論したいところであったが、そこは大人の対応で、「人種差よりも個人差のほうが大きいというのが一般的な事実です」と対応していた。

 たとえばコロナの重症化リスクで言えば、人種による重症化の違いはあるが、人種の違いより、肥満糖尿病のほうがより大きなリスクになっているという状況である。白人とアジア人の違いより、肥満のあるなし、糖尿病の有無のほうが重症化に関連している、人種差より個人差が重要ということである。しかし議論はなかなか噛み合わない。

■情報の「当てはまりの正しさ」にも目を向けよ

 人間に動物実験や試験管内の結果を当てはめることには鈍感で、人間のデータでありながら人種の問題をことさら取り上げて日本人には当てはまらないという論理には矛盾がある。わかりやすい矛盾だと思う。しかしそれでも、そのわかりやすい矛盾を無視した批判がもっともな批判として広く取り上げられたりする。そんな状況がここ数十年というか、以前取り上げた19世紀のペッテンコーフェルの時代からすれば、100年以上にわたって繰り返されている。

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