「ものにときめいて刺激を受けられるなんて今のうちよ!」83歳の女性患者からのアドバイス
ご自分の思いを常日頃から私たちに伝えてくださる患者さんで、いつもご自宅に伺うと、おしゃべりに花が咲きます。とても明るい性格で、「体が動くうちは積極的に治療を受けたい。動かなくなったら安らかに自然に逝きたい」など今後のシビアな治療方針なども実にフランクにお話ししていただいています。特におっしゃっていることは「痛いのも苦しいのもいや」「薬を飲むことで生じるめまいもしんどい」。そして、人生についてのお話でした。
「私の旦那はかなり年上で、若いときから旦那の姑や家族の介護をしないといけなかったの。子供も生まれたら子育てで忙しいでしょ~! 子供たちが巣立って落ち着いたのは最近よ。だから、旅行とかは若くて体が動いてドキドキする感情があるうちにしておきなさい! 私は日頃から刺激を受けようと、ときめく心を大切にしているの! 思い立ったが吉日ってのは本当よ」
私はふと「年を取れば取るほど、抽象的・全般的認識など単なる概念だけが残り、その間に経過した年月は消えうせ、全生涯が想像を絶するほど短く思われる」と、ドイツの哲学者ショーペンハウアーが著書「幸福について」の中で述べている、老年期に時間が早く感じる仕組みを分析した一節を思い出したのでした。
人にはそれぞれいろんな人生がある。生活の中に入り込みさまざまな生き方や考え方に触れる。そんな出会いもまた、訪問診療の魅力だと思っています。