独居の親の「セルフネグレクト」を疑うポイントは?
以前、訪問診療を行っていた際に「近所にニオイがきつい一軒家があり、玄関前にもゴミが山のように積まれているのですが住人の姿を見なくなり心配で……」と近隣住民から問い合わせがありました。問題の自宅に向かうと外壁の塗装や屋根の瓦は剥がれ落ち、今にも倒壊しそうな外観です。住人は70代後半の男性で、認知機能の低下でスムーズな会話が難しい状況でした。家の中に入ると床はゴミで埋め尽くされ、部屋中に排泄臭と体臭、生ゴミが混ざった悪臭がモワッと漂い、風呂場を見ても長らく使った形跡は見られません。
不衛生な環境では白癬(はくせん)菌がすみ着いて爪白癬や足白癬のリスクを高めるほか、小さな傷口から細菌に感染し、蜂窩織炎(ほうかしきえん)を繰り返して命に関わる恐れがあります。当初、その男性は医療サービスや福祉の介入をかたくなに拒否されていましたが、最終的に遠方に暮らすご家族の協力もあり、病院を受診して認知症と診断を受け、現在は施設で生活しているとのことでした。
老親と離れて暮らす家族は、帰省した際にセルフネグレクトの状態に片足を突っ込んでいないかチェックする必要があります。「洗濯物が片付けられない」「ゴミが捨てられない」「公共料金の支払いが滞っている」「髪の毛や爪が伸びっぱなしで身なりに気を使わなくなった」のであれば、将来的にセルフネグレクトを引き起こすだけでなく、孤独死につながるリスクも高い。異変があれば、まずはお近くの地域包括支援センターに相談してください。
▽清水聖童(しみず・せいどう) 横浜医療センター・横浜市立大学病院、国立精神・神経医療研究センター病院勤務、都内精神科・心療内科クリニック勤務を経て2020年11月開業。