医学部に強い中高一貫校 真の王者はホリエモンの母校・久留米大附設
進学校の実力を測る指標として、もっともよく出てくるのは全国高校別・東大合格者ランキング。約70年前から、集計データがマスコミで発表されるようになった。近年、東大合格者数と並んで注目されている指標がもうひとつある。国公立大医学部合格者数だ。
「企業への就職状況が好調だったため、一時は医学部志願者が減っていたのですが、コロナ禍で再び増えだしている。安定した職場であることに加え、医療現場で奮闘する姿がニュースで流れる場面が多くなり、医者になりたいという生徒が多くなっているのです」
最近の傾向を説明するのは、予備校で医学部コースを担当するスタッフ。どうして、医学部全体の合格者数ではなく、「国公立大」であることが重視されるのだろうか。
■東京医科歯科大と慶大の両方に合格したら?
「私立の合格者数は重複が多く、必ずしもその大学に進むわけではないため、正確な状況が反映されないのです。国公立と私立の両方に受かった場合、大半の受験者は国公立を選びます。例外としては、私立ナンバーワンの慶応大医学部。学閥の強さや医者として箔がつくという意味で将来的なメリットは大きいのですが、国公立にも合格した場合、どちらを選ぶかは微妙なところ。たとえば、東京医科歯科大と慶応大だと、前者を選ぶケースが多い。大学の格、アクセスなど、さまざま要素がいろいろ絡み合って判断は難しいですが、学費面で私立は圧倒的に不利なのです」
慶応大医学部の学費は私立大の中では安い部類に入るが、それでも6年間で2200万円以上かかる。対して、国公立大はその5~6分の1程度で済む。なお、国立大医学部の授業料は同一に設定されていたが、2020年度から東京医科歯科大と千葉大が年間10万円を超える値上げに踏み切っている。
いずれにしても、学費はもっとも大きな要素。私大の医学部の中には、6年間の費用が4700万円を超えるところもある。ほとんどの場合、国公立大が医学部志願者の第1選択肢になっているという現実からも、その合格者数が進学校の実力を表すバロメーターのひとつとして扱われるのはごく自然の流れだ。
久留米大附設は学年の半数以上が医学部に進学
21年の国公立大医学部合格者ランキングでは、いくつかの異変が見られた。第1位に輝いたのは、医学部に強い学校として知られる名古屋の私立中高一貫男子校の東海で93人。各メディアは「14年連続トップ」と大々的に報じた。だが、「21年の真の王者は別にいる」と話すのは前出の予備校スタッフだ。
「それは国公立大医学部合格者数90人で2位に躍進した福岡の私立中高一貫男女共学校の久留米大附設(20年は65人で5位)です。東海と比べると、1学年の生徒数が倍以上、違う」
東海の1学年の生徒数が420~430人なのに対し、久留米大附設は約200人。私立や防衛医科大学校(21年はトップの16人が合格)に入った生徒も含めると、学年の半数以上が医学部に進んだことになる。
ホリエモンこと堀江貴文氏やソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏(高1の冬に中退し渡米)が在学していたことで知られる久留米大附設だが、今や医学部受験校のイメージのほうが強い。「特に医学部を意識して、カリキュラムを組んでいるわけではない」と話すのは同校の元教師。
「3年生になると、放課後の2時間、志望大学別に特別講座を設け、過去の入試問題を解くなどの対策はとっています。ただ、それより大きいのは医学部に進みたいという生徒が集まっていること。親が開業医という家庭が多いのです」
そのほか、21年に起こった変化を見てみると、前年に国公立大医学部合格者数が81人で2位だった私立中高一貫男子校の灘が50人と大きく減らし、トップ10から漏れた。その一方で快挙も。上位に私立中高一貫校がひしめく中で、公立の県立熊本高が66人で5位に食い込んだのだ。
地方勢の健闘が目立つ中、首都圏でトップだったのは私立中高一貫女子校の桜蔭で54人。全国では9位だった。そのあとは開成52人、豊島岡女子学園45人と続く。
「学費の安い国公立大医学部に進むのに、私立中高一貫校に入らなければならないとなると、結局おカネがかかってしまう。何か矛盾している気もするが、それが現実なのです」(前出・予備校スタッフ)
どんな形で医者になるとしても、志す人たちには「医は仁術なり」という精神だけは忘れないでほしい。