著者のコラム一覧
田中幾太郎ジャーナリスト

1958年、東京都生まれ。「週刊現代」記者を経てフリー。医療問題企業経営などにつ いて月刊誌や日刊ゲンダイに執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベスト新書)、 「慶應三田会の人脈と実力」(宝島新書)「三菱財閥 最強の秘密」(同)など。 日刊ゲンダイDIGITALで連載「名門校のトリビア」を書籍化した「名門校の真実」が好評発売中。

医学部に強い中高一貫校 真の王者はホリエモンの母校・久留米大附設

公開日: 更新日:

 進学校の実力を測る指標として、もっともよく出てくるのは全国高校別・東大合格者ランキング。約70年前から、集計データがマスコミで発表されるようになった。近年、東大合格者数と並んで注目されている指標がもうひとつある。国公立大医学部合格者数だ。

「企業への就職状況が好調だったため、一時は医学部志願者が減っていたのですが、コロナ禍で再び増えだしている。安定した職場であることに加え、医療現場で奮闘する姿がニュースで流れる場面が多くなり、医者になりたいという生徒が多くなっているのです」

 最近の傾向を説明するのは、予備校で医学部コースを担当するスタッフ。どうして、医学部全体の合格者数ではなく、「国公立大」であることが重視されるのだろうか。

■東京医科歯科大と慶大の両方に合格したら?

「私立の合格者数は重複が多く、必ずしもその大学に進むわけではないため、正確な状況が反映されないのです。国公立と私立の両方に受かった場合、大半の受験者は国公立を選びます。例外としては、私立ナンバーワンの慶応大医学部。学閥の強さや医者として箔がつくという意味で将来的なメリットは大きいのですが、国公立にも合格した場合、どちらを選ぶかは微妙なところ。たとえば、東京医科歯科大と慶応大だと、前者を選ぶケースが多い。大学の格、アクセスなど、さまざま要素がいろいろ絡み合って判断は難しいですが、学費面で私立は圧倒的に不利なのです」

 慶応大医学部の学費は私立大の中では安い部類に入るが、それでも6年間で2200万円以上かかる。対して、国公立大はその5~6分の1程度で済む。なお、国立大医学部の授業料は同一に設定されていたが、2020年度から東京医科歯科大と千葉大が年間10万円を超える値上げに踏み切っている。

 いずれにしても、学費はもっとも大きな要素。私大の医学部の中には、6年間の費用が4700万円を超えるところもある。ほとんどの場合、国公立大が医学部志願者の第1選択肢になっているという現実からも、その合格者数が進学校の実力を表すバロメーターのひとつとして扱われるのはごく自然の流れだ。

久留米大附設は学年の半数以上が医学部に進学

 21年の国公立大医学部合格者ランキングでは、いくつかの異変が見られた。第1位に輝いたのは、医学部に強い学校として知られる名古屋の私立中高一貫男子校の東海で93人。各メディアは「14年連続トップ」と大々的に報じた。だが、「21年の真の王者は別にいる」と話すのは前出の予備校スタッフだ。

「それは国公立大医学部合格者数90人で2位に躍進した福岡の私立中高一貫男女共学校の久留米大附設(20年は65人で5位)です。東海と比べると、1学年の生徒数が倍以上、違う」

 東海の1学年の生徒数が420~430人なのに対し、久留米大附設は約200人。私立や防衛医科大学校(21年はトップの16人が合格)に入った生徒も含めると、学年の半数以上が医学部に進んだことになる。

 ホリエモンこと堀江貴文氏やソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏(高1の冬に中退し渡米)が在学していたことで知られる久留米大附設だが、今や医学部受験校のイメージのほうが強い。「特に医学部を意識して、カリキュラムを組んでいるわけではない」と話すのは同校の元教師。

「3年生になると、放課後の2時間、志望大学別に特別講座を設け、過去の入試問題を解くなどの対策はとっています。ただ、それより大きいのは医学部に進みたいという生徒が集まっていること。親が開業医という家庭が多いのです」

 そのほか、21年に起こった変化を見てみると、前年に国公立大医学部合格者数が81人で2位だった私立中高一貫男子校の灘が50人と大きく減らし、トップ10から漏れた。その一方で快挙も。上位に私立中高一貫校がひしめく中で、公立の県立熊本高が66人で5位に食い込んだのだ。

 地方勢の健闘が目立つ中、首都圏でトップだったのは私立中高一貫女子校の桜蔭で54人。全国では9位だった。そのあとは開成52人、豊島岡女子学園45人と続く。

「学費の安い国公立大医学部に進むのに、私立中高一貫校に入らなければならないとなると、結局おカネがかかってしまう。何か矛盾している気もするが、それが現実なのです」(前出・予備校スタッフ)

 どんな形で医者になるとしても、志す人たちには「医は仁術なり」という精神だけは忘れないでほしい。

■関連キーワード

最新のライフ記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 暮らしのアクセスランキング

  1. 1

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  2. 2

    シニア初心者向け「日帰り登山&温泉」コース5選 「温泉百名山」の著者が楽しみ方を伝授

  3. 3

    斎藤元彦氏猛追の兵庫県知事選はデマと憶測が飛び交う異常な選挙戦…「パワハラは捏造」の陰謀論が急拡散

  4. 4

    兵庫県知事選「頑張れ、斎藤元彦!」続出の異常事態…まさかの再選なら県政はカオス確実

  5. 5

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    別の百条委メンバーも兵庫県知事選中に「脅迫された」…自宅前に県外ナンバーの車、不審人物が何度も行き来、クレーム電話ひっきりなし

  3. 8

    悠仁さまの処遇めぐり保護者間で高まる懸念…筑付高は東大推薦入試で公平性を担保できるのか

  4. 9

    異様な兵庫県知事選の実態…斎藤元彦氏の疑惑「パワハラは捏造」の臆測が急拡散

  5. 10

    「資格確認書」利用で窓口負担増の“ペナルティー”を政府検討 露骨な格差に識者も怒り露わに会員限定記事

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動