地震・災害時にも役立つ タクシー難民だ!空車を早く見つける秘策2つ
16日深夜の地震で、帰りの足を失って途方に暮れた人は少なくないだろう。電車の復旧を粘り強く待つか、乗り場で並んだり流しをつかまえたりしてタクシーに乗るか。いずれにしても先が見えないだけに、徒労感が募る。地震の後、新橋で話を聞くと、タクシーのつかまえ方として、面白いことを話す人がいた。
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政府は、外出中に大地震が発生した場合、帰宅困難者は避難所などにとどまることを基本方針に据え、公的な避難所のほか、民間の商業施設などを含めた一時滞在施設の確保を急ぐ。東日本大震災では、自宅を目指す帰宅困難者が道路や歩道にあふれ、警察や救急の通行が妨げられる事態が相次いだ。
東京都は、行き場を失う帰宅困難者を92万人と試算。その分の一時滞在施設を用意する方針だが、今年1月現在、用意できたのは1155カ所、半分に満たない44万3000人分だ。
地割れやビルの倒壊があれば危険が増すことも「一時滞在施設待機」を後押しする要因だが、不十分なのが現実。その認知度もイマイチで、「早くウチに帰りたい」と先を急ぐ人の気持ちも理解できる。
そんな事情からか、地震発生から30分後の新橋周辺では、タクシー待ちが多く目についた。第一京浜や外堀通りでは、流しのタクシーの空車を求める人が続出。しかし走ってくるのは、乗車を示す「賃走」や先約ありの「迎車」ばかりで、「空車」はほぼナシ。タクシーを止めようと手を上げた人からは「はー」とため息が漏れた。
シェアサイクルで住宅街に移動して探す
すると、タクシー乗り場で並んでいた列を離れる人を見つけた。30代男性だ。なぜ諦めたのか話を聞くと、意外な答えが返ってきた。
「僕の前には10人以上いて、この後、どれだけ待つのか分からない。それでシェアサイクルのアプリを見たら、自転車があって予約できた。自宅は鶴見ですから、蒲田くらいまで自転車で向かおうと思います。タクシーはどの方向にしろ、住宅街に向かっているはずで、都心を離れた方が客を降ろしたタクシーをつかまえやすいと思って」
なるほど、それは一理ある。
シェアサイクルとは、会員同士で自転車をシェア=共有するサービスのこと。ドコモやソフトバンクなどが運営していて、会員登録すると利用できる。街中に自転車を置くポートがあり、いずれかのポートで自転車に乗り始めたら、アプリで目的地の最寄りのポートを探し、そこで返却すればいい。24時間利用でき、乗り捨てOKとあって、帰宅困難に直面したときにも使い勝手がいい。料金は運営会社によって異なるが、30分165円前後~。
チャリ返却後は上り車線沿いを進む工夫
男性は、そのドコモ版の会員で、新橋のポートから第一京浜を南下して品川を越え、蒲田周辺を目指す作戦。「品川など途中のタクシー乗り場で空車があれば、その近くで自転車を返します。空車がなければ蒲田方面に向かいます」と話してくれた。その作戦に興味を持った記者は、どこでタクシーをつかまえられたか、後で教えてくれないか交渉。男性は受け入れてくれ、翌日、電話で話を聞いた。
品川でタクシーはつかまったか。
「品川には30分弱で着きました。0時40分くらいだったと思います。第一京浜を走りながら、駅前のタクシー乗り場をチェックしたら、行列でしたが、タクシーは出払っていて絶望的な状況。当初の予定通り蒲田に向かいました」
シェアサイクルは電動サポートつきで、そのスピードは時速20キロほど。「手は冷たくなったが、体はそれほど寒くはなく、電動だから疲れもなかった」そうだ。蒲田では、すぐにタクシーがつかまったのか。
「結局、京急蒲田を越えて、雑色の手前で自転車を降りたのが1時10分すぎくらいかな。少しでも自宅に近づき、なおかつ横浜や川崎から都心に戻るタクシーをつかまえようと、上り車線沿いの歩道を歩いたら、これがよかった。雑色を越えてすぐに都心に戻る空車が見つかり、Uターンしてもらって帰宅できました。新橋から雑色まで1時間チョイ自転車をこぎ続けたので、最後はちょっと疲れましたが、ヘロヘロというほどではありません。この作戦、悪くはないと思います」
自宅に近づく下り車線は乗車の可能性が高いと見切りをつけ、上り車線沿いを歩いて都心に戻る空車を見つける工夫が功を奏した格好だ。
新橋から鶴見までの深夜料金は9000円近い。雑色まで自転車で移動したことで、3000円ほどで済んだ。ドコモの自転車利用料金は30分165円。1時間チョイの利用は495円。それにしても、この作戦は節約効果もデカイ。次に帰宅困難になったときもチャレンジするか?
「雪や雨の日は嫌。真冬や真夏の炎天下は、どうかなぁ。でも、春や秋など気候のいいときなら、やると思います」
ドコモの場合、千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、目黒区、大田区、渋谷区、中野区、杉並区の12区はエリア内で相互に乗り入れでき、4月から練馬区もこれに加わるが、男性のように都心を越えて走る人は途中で降りることを余儀なくされる。その点、ソフトバンクのサービスは、一度会員登録をすると、全国で利用できる。越境するなら、こちらがベターか。
男性の帰宅時刻は「1時40分くらい」。都心のJR各線は地震発生から1時間ほどの17日0時30分ごろから順次復旧。それとともに各地のタクシー待ちも解消していった。男性があのままタクシーを待ち続けたり、復旧した電車に乗ったりした方が、より早く帰宅できたかもしれない。が、「いつまで待ち続けるか分からない不安の中にいるより精神的に楽。ちょっとした運動で気分転換にもなったからよかったですよ」と笑う。
時間を潰しキリの悪い時刻で予約する
では、地震などでその場所にとどまってタクシーを見つける場合、乗り場や営業所で待ち続ける方がいいのか、流しをつかまえる方が早く乗れるのか。
大手タクシー会社を代表して国際自動車に聞いてみた。
「各地のタクシー乗り場には空車が向かいますが、地震や大雨などのときは乗り場に向かう手前の路上でお客さまが乗車するケースが多くなり、必ずしも乗り場に空車が集まりやすいとはいえません。また、営業所で乗車できるのは出庫のときです。朝夕に多くの車が出庫するタイミングを除くと、お客さまが営業所に来られても無線配車をご利用いただくことになります」(同社DX推進室=以下同)
営業所によって異なるが、出庫が多いのは7~9時、14~16時で、1時間のうち15分ほどで一斉に出庫。それ以外は、散発的にしか出庫しないという。シェアサイクルで住宅街に移動した男性の作戦は“正解”かもしれない。
あの日はアプリなどで迎車を探すのも絶望的だった。では、地震や荒天時の予約はどうか。
「弊社では、独自のkmタクシーアプリと他社と共同運用のS.RIDEアプリを用意していて、前者とウェブ、電話では30分後から。後者では20分後から予約できます。ただし、地震や荒天時のほか、車両が少ないエリアでは、予約が取りにくくなります」
案の定、難しそうだが、可能性はゼロではないらしい。ピーク時の予約にはコツがあるそうだ。
「一般に通勤時間帯などピーク時は、○時ちょうどの正時に予約が集まりやすい。正時を5分か10分ずらすと、おおむね予約可能です」
その点を踏まえると、タクシーがつかまらないときは、腹をくくって居酒屋やサウナなどで数時間過ごし、○時15分や55分などキリの悪い時刻で予約をすると、ひょっとするとチャンスがあるかもしれない。自転車作戦が嫌な人も、それでイライラせず、いい気分で帰宅できそうだ。