3.16地震では帰宅困難者が続出! 繁華街で被災したら…民間「一時避難施設」に急ぐべし
最大震度6強を記録した3月16日の地震は、東日本を中心にJRや私鉄をストップさせ、一時は多くの人が帰宅の足を奪われた。その余波で脱線した東北新幹線は、全面復旧が4月半ばまでずれ込む見通しだ。帰宅困難になったとき、どうするか。
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「やっぱりダメか」
16日の地震発生後、都内でJR新橋駅まで歩いてきた40代男性は、通勤に利用している京浜東北線が止まっていることを知り、疲れきってこう言った。銀座で友人たちとの食事を終え、新橋駅に向かう途中に地震に遭遇したという。
「食事をした店の周辺は電気がついていて、そこまで状況がひどいとは思いませんでした。ところが、銀座8丁目まで来たら、あの並木通りが停電で真っ暗。信号も消えた土橋周辺では、警察が車道に立って車を誘導していたのを見て、コトの重大さに気づきました。喉が渇いて何か飲みたいけど、手持ちのペットボトルは空。とりあえず、電気が通っているコンビニまで戻って、電車が動くのを待ちます」
新橋駅の改札前は、電車の復旧を待つ人が目立ち、SL広場にはあきらめて座り込む人もいた。西口の商店街などの路地には、スマホのライトを頼りに人がさまよう。自動販売機も暗いことに気づくと、「あー」と声なき声が聞こえてきた。とりあえず水を求めていたのだろう。
記者が歩いた限り、地震後の新橋の停電は、銀座よりひどく、日比谷通りと第一京浜に挟まれたエリアはほぼ真っ暗。そこにハマってコンビニ行脚を続けた人は、次から次へと“ハズレ”を引くことになり、つらかっただろう。
結果として都心の在来線は1時間ほどで順次復旧したが、いつ巨大地震で長時間の帰宅困難を余儀なくされるとも限らない。東京都が想定する首都直下地震で都内の帰宅困難者は最大500万人を超える。そのうち、どこにもとどまる場所のない人は92万人というから、対処法を押さえておこう。災害危機管理アドバイザーの和田隆昌氏に聞いた。
「東京都は帰宅困難者対策条例を定めていて、92万人と試算された行き場のない人の受け入れ先として、一時滞在施設の確保を急いでいます(今年1月現在、1155カ所、44万3000人分)。公立学校や図書館、公民館などの公的施設のほか、駅周辺の大規模商業施設や大企業、競技場などの民間施設も対象です。公的施設でも民間施設でも、水と食料、毛布などが配布されますから、街中で被災して帰宅困難になった人は、一時滞在施設を目指すべきです。東京駅や品川駅、渋谷駅、新宿駅などのターミナル駅周辺や繁華街には、必ずあります。繁華街で被災したら、民間の一時滞在施設が便利です」
とどまって電車の復旧を待つ
一時滞在施設がどこにあるかは、区や市など自治体のHPに掲載されている場合もある。平時にチェックしておくといいだろう。
たとえば、民間施設の場合、銀座周辺では、三越やGINZA SIX、東急プラザ銀座、歌舞伎座、J-POWERなどで、渋谷周辺だと、渋谷ストリーム、渋谷スクランブルスクエア、金王八幡宮、青学大、住友不動産渋谷タワー(アベマタワーズ)などだ。
「公的施設にしろ、民間施設にしろ、一時滞在施設が開放されるかどうかは、災害時の状況によります。災害時は自治体などの発表を確認して、施設が開設されたら、そこにとどまって、電車の運行再開などを待つこと。公共交通機関の運行情報も分かりますから」
■SNSは企業や自治体の公式アカウントを
こうした一時滞在施設には、非常用電源が備えられていて、16日のような大規模停電でも怖くない。交通事情が分かるとはいえ、それがどの程度の情報かは分からない。自分でも調べたくなるだろう。
「災害時にはツイッターをはじめとするSNSに頼る人がとても多いのですが、見知らぬ第三者の情報は客観性に乏しい。たとえば、電車の運行に関して、『A駅から動き始めた』とする投稿と『B駅では止まったまま』という投稿があったとしたら、その路線が本当に動き出したのか、徐行運転でところどころ電車が停止しているのか、判断に迷うでしょう。そもそも、それが事実かどうかさえも、です。ですから、情報は鉄道会社や自治体などの公式アカウントをフォローして収集することが大切です」
予備バッテリーは常に一つは携帯
先日の停電事情などもその典型か。前述したように停電地帯が新橋のように広いエリア一帯のこともあれば、1ブロック程度の小さいエリアのこともあった。ある地名の中の一部エリアの停電投稿を見て、その地名全体の停電と誤解したら、その後の行動を誤る。災害時にSNSの第三者情報に頼るのは、平時より危険だろう。だからこそ企業や公的機関の公式アカウントによる情報チェックが重要なのだ。それに加えて家族や会社などとの連絡もある。バッテリーが不安だ。
「最近のスマホは充電池の性能が改善されていて、フル充電で朝、家を出れば1日は充電ナシで過ごせることは少なくありません。ですから、予備のバッテリーを持たずに活動する人も多いと思いますが、こと災害を想定すると、予備のバッテリーは常に携帯しておくのが無難。災害時は、検索を多用するので、電池の消耗が早いのです。私は常に5000mAh(ミリアンペア時)の予備バッテリーを2つ携帯しています。それでフル充電を2回できますから、災害発生から3日程度はしのげる計算です」
帰宅困難者対策条例で企業などが最低限用意する水や食料の備蓄量は3日分。和田さんが予備バッテリーを2つ携帯するのはそこを押さえてのことだろう。「2つはちょっと……」という人も、せめて1つは用意しておくべきか。そうすれば、仕事やプライベートでスマホを多用したときも安心だ。
■状況次第では会社に戻る手も
前述した通り一時滞在施設には、とどまるのがセオリー。歩いて帰宅したりしない前提になっている。3.11のとき、人や車が幹線道路に殺到して、緊急車両が進まなくなった。その教訓から「帰宅困難者は一時滞在施設に」の流れになっているのだ。それでも、一時滞在施設より少しでも落ち着ける場所を求める人はいるはず。そんなときは?
「たとえば、災害発生時にいる場所の近くに会社があって、会社の安全性が担保されているなら、会社に戻るのはいい。会社のデスクには、寝袋やアイマスク、耳栓、Tシャツなどを用意しておくとよいでしょう」
駅や道路に人流が集中するのを避けるため、社員が多い大企業は大災害時に一斉帰宅の抑制が義務づけられている。それで従業員の水や食料を備蓄し、部外者には一時滞在施設になるケースもある。「今の帰宅困難対策はとどまるのが基本」なのだ。大災害発生時は、これを頭に入れて行動しよう。