30歳以上はだれでも「不整脈」、確実に見つけて治す方法…錣山親方は入退院繰り返した末に他界
一般の心電図は異常なしも24時間タイプを
では、心臓を守るにはどんなことに気をつければいいか。一般的な対策について桑島氏に詳しく聞いた。
まずは不整脈だ。健康な人でも中高年なら、ストレスや過労、喫煙、過度の飲酒などにより一日に何度か脈がおかしくなることは珍しくない。それが危ない不整脈かどうか、治療が必要かどうかをチェックすることが重要だという。
「脈が乱れると、それによる胸の不快感や動悸、息切れ、めまい、立ちくらみ、失神などの症状が現れることもあれば、現れないこともあります。症状があったりなかったりを繰り返して不安になって受診し、一般の心電図検査を受けても波形に異常が見られるとも限りません。それで『異常なし』とは診断できないので、日常生活の中で確認することが大切。それがホルター心電図検査で、24時間の脈を記録できるため自覚症状の有無に関係なく不整脈を検知できるのです」
ホルター心電図で異常が見つかったとしても、不整脈の原因となる病気はとても多く、ほかの検査も併せて行われることがよくある。
「よく行われるのは、心臓のポンプ機能を調べる心臓エコー検査がひとつ。もうひとつは運動負荷試験です。不整脈の中には運動をすると誘発されるものがあります。運動負荷試験は心電図や心拍数の変化を調べることで、運動によって生じた不整脈の変化を詳しく診るのです」
これらの複数の検査で心臓に異常がなく、なおかつ危険な不整脈でなければ、日常生活は問題ない。よく見つかる不整脈の典型が期外収縮で、脈が1拍欠けるようなタイプだ。このタイプは30歳以上はほとんどの人に見られ、年齢が上がると頻度が増える。期外収縮は治療なしで済む場合も多いが、治療が必要なら抗不整脈薬や安定剤を服用するという。
前述した房室ブロックでも、すべてが危険なわけではなく、不整脈はとにかく精密検査が重要。背景となる病気をしっかりと調べて、必要に応じた治療をすることが肝心だ。
■脳梗塞起こす心房細動は“ヤケド”で治療
では、危険な不整脈はどうか。心房細動は侮れないという。
「心房細動は60歳から増え始め、80代では男性の4%、女性の2%が罹患しているといわれます。このタイプも、ほかと同じように動悸や息切れ、めまいなどの症状を起こしますが、怖いのは脳梗塞との関係です。この不整脈があると、心房の血流がよどみ、血栓ができやすい。その血栓が血流再開で流れると、脳の血管を詰まらせ、脳梗塞を起こすことがあります。しかも、これによって生じた脳梗塞は命に関わったり、一命をとりとめても後遺症が重かったりするのです」
心房細動は、ストレスや睡眠不足、疲労、過度のアルコール摂取がリスクとなる。まずこれらのリスクを取り除く生活改善を心掛けた上で、脳梗塞予防で血栓をできにくくする抗凝固薬を服用する。糖尿病や高血圧などがあればなおさらだが、最近は根本的な治療も行われている。
「不整脈は電気信号の乱れが原因で、心房細動の発症も同じ仕組みで発生します。そこで、異常な電気の流れを焼き切ることで信号伝達を正常化して不整脈を治すのがカテーテルアブレーションです。脚のつけ根やひじから細い管を通して、異常信号を発生する心房の部位まで誘導したら、先端から高周波を流して心筋の一部に軽い“ヤケド”を起こして不整脈の原因を取り除きます。“ヤケド”は、絶縁体の役目です」
ほかにブルガダ症候群といって、突然死との結びつきが強い不整脈もある。これは、家族に若年や中年で突然死した人がいる、睡眠中にぽっくり亡くなった人がいるなどの家族歴や、寝ているときや夜間に苦悶するほど呼吸が苦しくなったことがある、不整脈で失神したことがあるといった既往歴などがリスク。異常が見つかっても多くは無症状で経過するが、治療が必要になると体に除細動器(ICD)を植え込むことになる。
こうして見ると不整脈の症状はありふれているが、決して放置してはいけないことが分かるだろう。
一方、心筋梗塞は、心臓を養う冠動脈が詰まって、心筋が壊死する病気だ。その前触れとして胸の痛みを主な症状とする狭心症が知られている。その薬が、錣山親方も使用していたニトログリセリンだが……。
「狭心症を発症してニトログリセリンを服用するなら冠動脈の閉塞を改善する根本的な治療を受けるべきです。そうすれば心筋梗塞を防ぐことができます。当然、それらの血管内治療と並行して、その背景にある糖尿病や高血圧、脂質異常症などの治療も欠かせません」
長生きするには心臓の健康が第一だ。錣山親方の死を無駄にしないためにも、ちょっとした症状を軽視せず、きちんと治したい。
錣山親方のご冥福をお祈りします。