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田中幾太郎ジャーナリスト

1958年、東京都生まれ。「週刊現代」記者を経てフリー。医療問題企業経営などにつ いて月刊誌や日刊ゲンダイに執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベスト新書)、 「慶應三田会の人脈と実力」(宝島新書)「三菱財閥 最強の秘密」(同)など。 日刊ゲンダイDIGITALで連載「名門校のトリビア」を書籍化した「名門校の真実」が好評発売中。

受験日をずらせば全付属中学に挑戦できる巧みな経営戦略

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「慶応さんは商売上手。とても歯が立たない」と羨望と皮肉を込めて語るのは早稲田実業の関係者。経営的にも、優秀な人材を集める手法でも、慶応のほうがずっと長けているという。特に差を感じるのは中学受験の日程。慶応付属の中学は3校あるが、2月1日普通部、2日湘南藤沢、3日中等部と入試日をずらし、すべて受験できるようにしている。慶応全体の運営にも関わったことがある文系教授は「戦略のひとつ」と明かす。各校の底上げを図っているのだ。

「合格のボーダーラインのあたりは最も人数が多く、1点違うだけで振り落とされてしまう。その中には将来の慶応を背負う人間が埋もれているかもしれない。チャンスを増やせば、そうした人材が拾える」

■早大系列は2月1日にすべて集中

 2月初頭は有名中高一貫校の入試日が集中。男子校では1日は御三家(開成、麻布、武蔵)、2日は栄光や聖光、3日は筑駒など、超難関中学が目白押しだ。こうしたところと併願できるのも慶応の強み。一方、早稲田は早実中、早稲田中学、早稲田大学高等学院中学部とすべて1日に入試が行われる。

「高等学院は早大の付属ですが、あとは系属校で大学とは別法人。いい意味で独立独歩。早大と強固なパイプを持ちつつも、大事なことは自分たちで決める」と前出の早実関係者は話す。その点、すべて大学の付属校となっている慶応は上意下達が浸透している。

「塾長を頂点とする慶応義塾理事会の決定事項は絶対。最高意思決定機関とされる評議員会は理事会の決めたことを追認するだけです。あまりに塾長の力が強すぎる弊害はあるものの、組織運営は非常にやりやすい。いわば、中国やロシアと似ている」(文系教授)

■早稲田中だけは再チャレンジが可能だが…

 より有効な入試戦略を組み立てている慶応に対し、早稲田も手をこまねいているわけではない。中高一貫の早稲田中は2月1日以外に、2回目の入試日を3日に設け、1回目に合格できなかった受験者は再チャレンジできる。「ただ、2回目だからといって易しくなるわけではない」と話すのは大手学習塾のスタッフだ。大半が早大に内部進学する他の付属・系属校と違い、上位校の早稲田高から推薦で早大に進むのは約5割。それ以外は一般入試で大学を目指す。23年度の東大合格者は39人で全国16位。国公立大医学部も25人という有数の進学校なのだ。

「早稲田中入試2回目は開成や麻布に落ちた受験者が加わるので、難易度が跳ね上がる。しかも、こうした生徒は内部進学より難関大への受験を目指すケースが多い。早大に進む優秀な人材を確保したいという早稲田グループ側の思惑とは異なる状況になっている」

 慶応の場合は3つの中学に入ってくる生徒がそのまま大学まで内部進学する割合は、いずれも90%台後半。小学校の幼稚舎や初等部から入学するケースも含め、ブランドへの固執は早稲田より慶応のほうが強いようだ。

◆田中幾太郎の著書「名門校の真実」(1540円)日刊現代から好評発売中!

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