全国の海岸線を知る男が教える「夏のうまい地魚はコレだ」(後編)

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 旅行の大きな楽しみのひとつは、おいしいものを食べることだろう。島国ニッポンなら、やっぱり魚。それも、旅先の周辺で親しまれ、地元の食卓に上がる地魚だ。全国の海岸線をめぐり、東京海洋大で魚食文化論の講義も担当した西潟正人氏がすすめる全国のウマい地魚の後編をお届けする。

  ◇  ◇  ◇

■身はピンク色。特有の食感と爽やかさがいい

■アオザメ

 アオザメは、世界中の温帯から熱帯域に生息する。全長4メートルを超え、人を襲うこともある危険なサメだ。

 相模湾と駿河湾はサメ類が多く、深海ザメを専門にする漁師もいる。興味があれば、サメに出合う漁港巡りも楽しいかもしれない。

 アオザメは、日本で捕獲されると、練り製品などの加工業者へ運ばれるが、アメリカではステーキにして人気の高級魚と聞く。

 静岡の網代定置網で、100キロを超すアオザメが捕れた。東京・品川の直営店に即日運ばれて解体、夕方には客に提供された。一般にサメ類は新鮮でもきついアンモニア臭に閉口するが、ネズミザメ科のアオザメにはそれがない。身は美しいピンク色。サメ類特有のざくざくした食感だが、爽やかさがいい。

 アオザメやネズミザメは、産地ならスーパーや魚屋に並ぶことがある。心臓は星と呼ばれ、けっこうな値段だ。ステーキを食べると、これがサメかと思うほどおいしいのだ。

皮を忘れるな!酢味噌と和えたヌタは逸品

■イシダイ

 夏の季節、イシダイの若魚は群れで定置網によく入る。老成するとクチバシが黒くなることからクチグロ、近縁種のイシガキダイをクチジロと、釣り人は尊称を込めて呼ぶ。

 サザエなど硬い殻を砕いて食べるから、強靱な顎を持つ。そんな性格からか身は硬く締まり、皮も硬い。力強いから、釣り人にとっては羨望の的になる。

 伊豆諸島の荒磯を本場とするから、イシダイ料理屋もその辺りに集中するのだろう。定置網で捕れると、市場価格は釣り人気ほど高くない。夏の魚好きには、狙い目の魚だ。

 引き締まった白身は、ワサビ醤油と相性がよい。腹身の脂は甘いながらも清涼感が漂う。

 刺し身に引いた皮を、忘れてはいけない。細かく硬いウロコを丁寧に取って洗い、湯通ししたら冷水に浸す。水気を切って刻んだら、酢味噌に和える。イシダイの皮ヌタ、夕涼みで一杯やりたくなるような逸品である。

塩焼きで一杯。根魚とも青魚とも違う軽い脂

■ウメイロ

 聞きなれない魚名だろうが、釣り人はそのおいしさを知る。釣れると、「ヨシ!」とクーラーボックスに確保。酒の肴になる。30センチほどのフエダイ科で南方系の魚だ。

 仲間の青っぽいアオダイに比べると、熟しかけた梅の実のように黄色っぽい。ウマそうな、いい名前をつけたものだと思う。

 かつて“幻の魚”のように扱われたが、今はたまにスーパーの魚売り場でも見かける。温暖化で南の魚が北上してきたか、世間においしさが知られたからだろう。

 鹿児島の魚屋でウメイロを見つけ、2匹ほど買って帰ったことがある。氷詰めをしっかりやった当日だから刺し身でもいけたが、風呂上がり、真夏の塩焼きで一杯やりたくなった。

 根魚とも青魚とも違う、軽い脂が焼き面に浮かぶ。少し焦げてくると、かすかな音を立てて香り立つのだ。たまらなくなって、私はビールの栓を抜く。

血合いを骨ごと叩く。ショウガ醤油で茶漬けに

■カツオ

 千葉は南房総の勝浦だった。カツオの水揚げ港として名を馳せる、関東では屈指の港町。泊まったのは町はずれの、古びた民宿である。

 夕食の買い物で、女将が魚屋に行くというからついて行った。カツオは氷の入った大きなバケツに、頭から突っ込まれている。

 店内を物色すると、タカノハダイが1匹450円。関東の市場にはまず出回らない、一般に嫌われ者の魚だ。隣にはゴンズイが、毒トゲをつけたまま売られている。漁師町の魚屋は、地魚があるからおもしろい。

 カツオの刺し身でビールを飲んでいると、お勝手からトントンまな板を叩く音がする。のぞきに行くと、カツオの血合いを骨ごと叩いて、ショウガと醤油で和えた「湯むぐり茶漬け」だという。

 ご飯の上にのせてお湯をかけるだけだが、カツオの香りが濃厚で思わずうなってしまう。船上でも食べたであろう、漁師料理の真骨頂を、おかわり!

この時期はオス。白子を軽く焼いて吟醸酒を

■イサキ

 イサキは夏の高級魚として知られる。猛暑の季節にたっぷりと脂がのる、貴重な白身魚なのである。うまいイサキが食いたければ、関東の漁師町を訪れるといい。

 若魚は縦に並んだ白線が、猪の子に似ていることからウリボウと呼ばれて安い。が、真夏のイサキの醍醐味は成魚にあって、1匹で800グラム~1キロは欲しいところだ。

 逗子の友人が、相模湾のイサキを釣ってきた。見事な成魚で、腹もたっぷりと太っている。もしやと開いてみれば、大当たり。白子(精巣)だった。産卵期のメスは卵に栄養を取られて身は疲弊するが、オスは体力を使わずに脂を蓄える。

 三枚におろして皮を引くときは、皮に脂を残さぬよう注意する。刺し身は厚めに、たっぷりとした1切れにする。粗塩でも、ワサビ醤油でもいい。ほおばって、噛みしめて、夏のぜいたくを味わう。

 白子は軽く焼くだけで、絶品の酒の肴。キリリと冷えた、吟醸酒が欲しくなる。

食感と独特の甘み。新鮮な一本は刺身でこそ

■シイラ

 高知県興津に、シイラ漬け漁を営む漁師がいる。漬物ではない、魚をパヤオ(漁礁)に居づかせて旋網で捕獲する漁法だ。パヤオは長さ10メートルもの孟宗竹を束にして固定し、海面の浮遊物に集まるシイラの習性を利用する。

 シイラの魚食文化も西高東低、西側に軍配が上がる。屋久島や長崎の魚市場で、シイラはそれなりの値がついていたが、関東では食べる習慣がない。山陰の隠岐の島でもシイラは珍重され、釣り人は競ってルアーで狙っていた。

 ハワイではマヒマヒと称して高級魚だが、ヒロの魚屋で値段と品質の悪さに驚いた。夏の魚シイラは、氷をふんだんに使うなど管理に気をつけないと劣化が早いのだ。

 新鮮なシイラは、刺し身がうまい。脂がのっていなくても、身質の食感と独特な甘みだろう。一般ではフライなど揚げ物の定番だが、もったいない。夏のシイラこそ、刺し身である。

(文・写真=西潟正人)

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