89年日本シリーズの舞台裏を当時の投手コーチ中村稔氏が振り返る
中村コーチには自信があった。3戦目に2番手で登板した水野(雄仁、現解説者)がコースに投げ分け、近鉄打線を3イニング無安打5奪三振に抑えていたからだ。
「自信を持っていけ!」
中村コーチがハッパをかけて送り出した香田は、140キロの直球と90キロ台のカーブで近鉄打線を翻弄、3安打8奪三振で完封。5-0と快勝すると巨人は5、6戦も勝って一気に流れを引き寄せた。
藤井寺球場での第7戦、中村コーチは試合前から密かに「祝勝会」の準備をさせていた。
「(兵庫県芦屋市の)宿舎を出る前、マネジャーに大きなポリバケツを2個、移動用バスに用意させたんです。そしてガバッと氷と缶ビールを入れておけと。マネジャーは、『何をするんですか?』とびっくりしてましたが、絶対に勝つ自信がありましたから」
試合は巨人が8-5で勝ち、8年ぶりの日本一に輝いた。
試合後、バスで宿舎に向かった。巨人はバッテリーと野手がそれぞれ別のバスに分乗した。バスが出発すると、バッテリー陣はポリバケツで冷やしてあったビールで祝杯を挙げた。動く祝勝会だ。