投手や監督を錯覚させる キャンプのブルペンには落とし穴
監督や投手コーチを務めているとき、キャンプでなかなか調子の上がってこない投手に、私はよく「室内練習場で投げてきなさい」と指示を出した。1球投げては首をかしげているような選手に、これが効果的だった。
キャンプ地のブルペンは、球団によって多少の違いはあれど、四方を3メートルほどの塀に囲まれ、投手と捕手の頭上には、雨をしのぐ屋根がついている。だから、音がよく響く。パーン! パーン! と小気味のいいキャッチャーミットの乾いた捕球音を聞いていると、投手は自分が素晴らしいボールを投げているものだと錯覚する。室内練習場だとさらにその効果が増すから、自信を取り戻させるひとつの方法論として使ったのだ。
■斜め横から見る意味
そういう場所を使うキャンプの投球練習というのは、それだけアテにならないということでもある。一軍でも二軍でも、プロに入ってくるような投手はみな、ブルペンでは一級品。キャッチャー相手に投げるだけの練習では、当たり前だが、打たれる心配はない。ノンプレッシャーの中でいくらいい球を投げても、その投手の本当の実力を示すものではない。特にこの時期は、チャンスをつかもうと一軍での実績が乏しい若手ほど飛ばして投げるものだ。「今年はやりそうだぞ」と思っても、いざ、実戦が始まると、ストライクを取るのにも四苦八苦してしまうという例をこれまでに何度も見てきた。