日本のマラソンのテーマは黙々と技術を追究する気迫と気力
厚底の利点はこうだ。
人は走る時に爪先でキックし、長丁場でのキック走法は故障につながる。トラックが土の時代、円谷がそうだったように、トラック長距離選手の大半はアキレス腱を痛めてシューズを脱いだ。マラソンという持久走を走り切るには踵から着地するベタ足走法、そして“紙のように”軽く薄い靴底が求められた。
ところが、高地族の生活環境では長距離の概念が違うのだろう。80年代に爪先走法のアフリカ勢が長距離界を席巻し、これに着目したのが中山竹通だった。
スピードがなかった中山は、ベタ足では中距離出身の瀬古に勝てないと走法を変えた。右爪先での着地は負荷がかかるため、嫌いなトラック練習で爪先側面の“点”ではなく“線”での着地技術を体得したという。瀬古のマラソン記録を更新、次に1万メートルの記録も破った中山は「スピードランナー」と呼ばれるのを嫌った。「スピードがあったらあんな苦労はしなかった」というのだ。
■記録やギアはただの手段