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安倍昌彦スポーツライター

1955年、宮城県生まれ。早大卒。アマ時代に捕手としてプレーした経験を生かし、ドラフト候補のボールを実際に受けて取材するスタイルを確立。通称「流しのブルペン捕手」。自身が責任編集を務める雑誌「野球人」を始め、著書、寄稿は多数。

ドラフト上位指名候補3投手を“流しのブルペン捕手”安倍昌彦氏が徹底チェック

公開日: 更新日:

森木大智(高知高/右投げ右打ち)

 11日に迫る今年のドラフト会議。「流しのブルペン捕手」ことスポーツライターの安倍昌彦氏が、自らマスクをかぶってボールを受けた森木大智、捕手の真後ろに立ってつぶさに投球をチェックした隅田知一郎、椋木蓮の上位指名候補3投手を徹底リポートする。

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 ◇  ◇  ◇

「負けず嫌いが過ぎるというのか、大事なところで燃え過ぎてしまうことがあって……。全部、全力で押してしまって、自分しか見えてなくて、冷静に周りを見たら誰もそんなこと、求めていない……」

 昨年の秋の終わり、森木大智がそんなことを言っていたなぁ……と思いながら、目の前で、大阪桐蔭高の強力打線に痛打を浴びている彼のマウンドを見ていた。

 この6月の招待試合、最後の夏は、もう目前に迫っていた。

 持ち味の快速球は150キロ前後かと思えるほどの勢いで、ボール! と見切った低め速球がいっぱいのストライクになって呆然とする打者もいたが、ひたすら、もっと速く、もっと速くと気負う森木大智の投球にタイミングを合わせることは、逸材揃いの大阪桐蔭打線にはたやすいことだったのかもしれない。

 打者の待ち方を難しくできる110キロ台のカーブもあるのに、なかなか使おうとしない。

「MAX何キロなんて、気にしない。フォームが安定してしなやかさが出てくれば、スピードは自然と上がります。それより、自分は<勝てる投手>になりたいんです」

 この少年は、本当にわかっている。

 説明能力もあって、頭の中も整理できていて、あともうちょっとのところでそれを体現できるのに、殻を破り切れずに、その手前でウンウンうなっている。

 しかし、そここそが、投手・森木大智の伸びしろだと思っている。

■球道半ばからグイッと加速する快速球は破壊力十分

 むしろ、打者を相手にして、これだけ熱く燃えて闘いを挑めるメンタリティーは、間違いなく「財産」だ。打者のスイングを圧倒できるだけの速球の破壊力……それは、昨秋、彼の全力投球を受けて、十分に確認済みだ。

 球道半ばの、そこから来いっ! というところから、グイッと加速してこちらのミットにめり込む破壊力は、昨年のトヨタ自動車・栗林良吏(現広島)を超える。あとは、その財産の使いどころと使い方だ。

 長いイニングをあの手、この手……より、「目の前の3人、やっつけてこい!」。そんな使命が、性に合っているのではないか。

 阪神の絶対的守護神・藤川球児を生み出した「土佐」の血を引き継いだ剛腕だ。

 試合終盤、しびれるような場面での痛快なピッチングを楽しみにしている。

椋木蓮(東北福祉大/右投げ右打ち)

 今年のドラフトは、大学生投手にも、実戦力の高さと将来性、それぞれの個性を持つ怪腕、剛腕が居並んでいる。

 右腕なら、東北福祉大・椋木蓮の見えかけている潜在能力にとても引かれる。

 ここまで故障がちだった大学生活。それでも復帰するたびに、いきなり150キロ前後の剛球を披露。昨秋リーグ戦では、横に流れがちだったスライダーもタテ軌道を取り戻し、リーグMVPを獲得した。

■全身にためたパワーをリリースの一瞬に爆発させる技術

 そばで見ていると、リリースで指先がボールをはじく「ブチッ」という音が聞こえてきそう。投げる……ではなく、これでもかっ! と「投げ込める」投手。リリースの一瞬に全身のためたパワーを爆発させる技術を持っている。

 150キロ前後を投げられる剛腕が10人ほどもいる東北福祉大投手陣の中でも、ボールが迫ってくるほどにズームアップして見えるのが椋木の球質だ。特に高めは、ソフトボールぐらいにも見えて威圧感十分。

 スライダーとスッと動くツーシーム系。球種は多くないが、どれもが一級品。中継ぎか抑えで働ける剛腕だ。

隅田知一郎(西日本工業大/左投げ左打ち)

 一方の左腕、西日本工業大・隅田知一郎は、今年6月の全日本大学野球選手権で、まさに「彗星」のごとく現れた快腕である。

 福岡・小倉から大分に向かって、県境に近い苅田町にある西日本工業大で、3年間コツコツ地道に努力を重ね、我流の厄介なクセがまるでない素直な投球フォームに体力、筋力を重ねて、全国トップクラスのサウスポーに成長してきた。

 その「全国」の1回戦、たった一球の失投を本塁打にされて敗退したが、強豪・上武大から14三振を奪って、その実力を見せつけた。

 コンスタントに145キロ前後をマークする快速球に、コロナ禍で練習自粛になった間に自ら開発して身につけたツーシームとチェンジアップが、ホームベースの両サイドをよぎった。

 変化球は、他にもスライダー、カーブにスプリット。そのコントロールに驚いた。プルペンで50球ほど、すべての球種を投げて、抜けたり、ワンバウンドしたり、投げ損ないの変化球が一球もない。

中日大野雄大を彷彿とさせるクロスファイア

 デカイのが主流の今の学生球界なら細く見えるユニホーム姿だから、もっと「パチーン!」と来る速球かと思ったが、「ドカン!」と聞こえるような捕球音なら、間違いなく破壊力も一級品だ。

 佛教大時代に受けた中日・大野雄大のクロスファイアを思い出した。

 楽天早川隆久(20年ドラフト1位)とまではいわないが、春から先発で働けるとみる。1位指名重複もありそうなサウスポーだ。

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