岩手のもやしっ子がパワーでメジャーリーガーを圧倒するまで

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 1994年、岩手の盛岡は真夏日が48日間もあった。

 大谷は7月5日午後9時6分、その盛岡から50キロほど南に下った奥州市水沢で産声を上げた。

 体重は3400グラム。赤ん坊としては大きい方だった。生まれたての赤ん坊は通常、顔がくしゃくしゃだが、産婦人科の看護師は「ずいぶんとしっかりした顔つきのお子さんですね」と驚いた。大谷が生まれた直後あたりから水沢も真夏日が続き、家のエアコンはつけっ放しだった。

「翔平」という名前の由来は源義経だ。父親の徹さんはもともと「翔」の字が気に入っていた。羽ばたくというイメージがあって、京の五条の橋の上で弁慶の攻撃をかわした身軽な義経と重なること。さらに大谷の生まれた水沢から程近い平泉は、義経が自ら命を絶った場所であることから、平泉の「平」の字をもらって翔平と名付けたという。

 徹さんは元社会人野球の選手。黒沢尻工(岩手)時代は甲子園を目指し、三菱重工横浜では外野手としてプレーした。三菱重工横浜の野球部には徹さんも含めて高校出身の同期が4人。そのうち2人はプロ入り、ひとりは阪神の村山実監督時代に活躍した中野佐資だ。徹さんもプロが目標だったものの、志半ばで断念。故郷の岩手に戻って以降は、自動車のボディーメーカーに勤務、昼夜2交代制で車体を造る過程のラインにしばらく携わっていた。

 母親の加代子さんはかつて、バドミントンに打ち込んだ。中学3年時に神奈川県代表メンバーに選ばれ、全国大会へ。団体女子の部で準優勝した。決勝で敗れた相手は92年のバルセロナ五輪に出場した陣内貴美子のいた熊本県。このときの全国大会決勝を含め、同学年だった陣内とはこの後も何度か対戦。卒業後はインターハイの常連校だった横浜立野高に進学した。

■カビだらけの弁当

 両親の血だろう。大谷は幼少期から運動神経がよかった。

 幼稚園から小学4年生までスポーツクラブのスイミングスクールに。姉体小5年のとき、小学校代表で水沢区内の記録会に参加。バタフライと平泳ぎに出場して、平泳ぎは3位だった。陸上でも水沢区内の記録会に出場、5年時は200メートルで3位、6年時は80メートルハードルで6位に入賞した。「他の生徒たちは顔をくしゃくしゃにして懸命に走っているのに、大谷は流して走っているように見えるんです。けれども、ダントツに速く、他の生徒をゴボウ抜きです」とは中学時代の担任。

「流して走っているように見える」のはいまも変わらない。なのに速いのだ。

 小さいころは外で遊ぶか寝るかどちらか。幼稚園で友達と遊び、夕方帰ってくると居間のソファの上で眠りこけた。リトルリーグから帰ってきてもコテッ。とにかくよく寝る子だった。

 寝る子は育つという。体は幼稚園のころから常に大きな方。それでも飛び抜けて大きいわけではなかったが、中学に入ってから背丈はぐんぐん伸びた。牛乳が好きで、毎日1リットル飲んだことも大きかった。中1で166センチだった身長は、3年間で20センチ伸び、卒業時には186センチあった。

 ただし、食は細かった。育ち盛りながら、中学時代、白飯は茶碗に1杯で十分。背は伸びても、もやしっ子だった。

 進学した花巻東高(岩手)には「食事トレーニング」がある。ノルマは1日にどんぶり飯10杯分。食が細い大谷にとっては苦痛だった。練習試合の昼食は、仕出屋の弁当。余った分は投手が食べることになっていたが、食べ切れないからといってゴミ箱に捨てるわけにはいかない。寮の机の引き出しにしまったままにして、カビだらけにしたこともあった。

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