「流星ひとつ」沢木耕太郎著
<三十数年の時を越えて明かされた藤圭子の真実>
1979年秋。沢木耕太郎31歳。藤圭子28歳。藤圭子はその直前に、年末のコンサートを最後に芸能界から引退することを発表していた。突然の引退発表に、その原因を巡ってさまざまな臆説が流れていた。数カ月前に藤から「もうやめようと思うんだ」という言葉を聞いた沢木は、「どうして?」という答えを得るために、秋の一夜、藤が好きだというウオツカトニックを飲みながらホテルのバーで彼女の思い出を引き出していく。
幼い頃の北海道での貧しい生活、浪曲師の両親と一緒に回った各地の興行、スカウトから歌手デビューまで、前川清との結婚と離婚、そして引退を決めた理由……。沢木は、このインタビューを地の文を交えず会話だけで書くという野心的な方法を試み原稿を完成させる。
しかし当時、本にすることは見送られた。藤の自死を巡り再び臆説が飛び交ったとき、原稿は日の目を見ることに。10年間、流星のように芸能界を駆け抜けてある決意に達した28歳の藤圭子。その生身の声が鮮烈に再現され、三十数年の時を越え、読む者に強く訴えてくる。