「鄙への思い」田中優子著、石山貴美子写真
沖縄の基地問題、鄙に生まれ育ち、多くの人に芸術的な影響を与えた「秋田蘭画」を残した小田野直武の人生、高速増殖炉「もんじゅ」の計画と破綻、水俣病や放射能汚染が鄙の内に生み出す差別など。さまざまな視点から鄙を見つめ、鄙の本当の存在理由は「人を自然界に結び付け直し、人を『まとも』に育ててゆく力」だと語る。
冒頭の田んぼの写真の他、章ごとに添えられる、祭りや農作業、丸太を組んだだけの素朴な鳥居などの石山氏の写真作品からは、流行や経済に一喜一憂する都会の風景とは無関係に、それぞれの風土で地に足をつけて生きる鄙の人々の暮らしぶりが伝わってくる。鄙を都の価値観に対して批判的に働くもうひとつの文明と位置づけ、鄙の思想を再構築していく示唆に富んだ思考の試み。
(清流出版 1800円)