「界」藤沢周著
仕事で秋田県の土崎を訪ねた「男」は、終了後、目についた禅宗の古刹に足を踏み入れる。仕事の予定が入ったとき、学生時代の恋人の墓参もと頭をよぎったのだが、彼女の墓の場所さえも知らず、自分の浅はかさに嫌気がさす。タクシーの運転手の話では、竿燈まつりの季節には久保田城跡の千秋公園のハスの花が見ごろだという。30年前に彼女と竿燈まつりを見物したが、ハスの花を見た覚えはない。飲み屋街で、かつて彼女と入った店を探していた男は、それらしい店を見つける。応対した老婆に2階に通された男は、そこが「ちょんの間」だと気づく。(「千秋」)
新潟県月岡、鹿児島県指宿などさまざまな土地を漂泊する男につきまとう死と官能を描く連作小説。
(文藝春秋 1200円+税)