故郷・陸前高田の変わり果てた風景「未来をなぞる 写真家・畠山直哉」
東日本大震災を記録したドキュメント類はたくさんあるが、震災経験が「美」とどう関わるのかを考えさせるものは多くない。その数少ない一例が、現在都内公開中の映画「未来をなぞる 写真家・畠山直哉」。
現代の美術写真家の中でも特に思索的な作風で知られる写真家が、壊滅的な打撃で一変した故郷・陸前高田を幾度も訪ね、歩き、変わり果てた風景を撮る。
その姿を追跡したドキュメンタリーだが、津波で母もろとも実家を失った写真家は、不機嫌と困惑の入り交じったような表情のまま。
しかし、その姿を追うビデオカメラが実に素直に、被写体と適度な距離を保ちながら、50歳を過ぎて故郷を失った男のぶぜんたる姿をてらいなく捉えてみせる。
聞けば監督は、大阪の写真学校で写真家と師弟関係にあった若手なのだそうで、道理で遠慮なく、しかし敬意を持って先生の背中を追いかけるような迫り方なのだなと合点がいった。
かつて写真家は、渋谷の暗渠のじめじめと腐敗した闇の底を怜悧な美学で捉え、発破で吹き飛ばされる石灰鉱山などを被写体に選びながら、思い入れを極力排除した風景写真の思弁性を追究してきた。