幻想の近未来ハリウッドが舞台のSF映画「コングレス未来学会議」
アニメの神髄は寓意にある。日本ではなぜかリアル重視のアニメ界だが、元来「動く絵」であるアニメは現実をなぞる(=写す)のではなく、現実のエッセンスを抽出し、いわば「たとえ話」なのである。
その点でいま一番の“アニメ使い”はイスラエルのアリ・フォルマン監督だろう。自身の戦争体験(第5次中東戦争)をアニメで描いた「戦場でワルツを」は秀逸なアイデアが光ったが、その彼が同じ手法をまったく別の素材に応用したのが今週末封切りの「コングレス未来学会議」だ。
原作はスタニスワフ・レムの昔のSF小説。幻覚剤で人々が管理される未来社会の話だが、フォルマンはこれをスター俳優が肉体のスキャンデータを会社に売り渡し、CGだけで映画が作られる幻想の近未来ハリウッドの話に置き換えた。それが単なる作り話に見えないのは「フォレスト・ガンプ」の女優ロビン・ライトが実名で主演し、虚実皮膜を地で行く設定のおかげ。さらに20年後、初老になった彼女が再び登場するところで実写とアニメが巧みにより合わされるのである。
すぐに思い出したのがフランスの左翼思想家ギー・ドゥボール「スペクタクルの社会」(筑摩書房 1200円)。現代がメディアの見せ物的な誇大幻想(スペクタクル)漬けになっているという批判を展開したユニークな現代の古典である。