著者のコラム一覧
香山リカ精神科医・立教大学現代心理学部映像身体学科教授

1960年、北海道生まれ。東京医科大卒。NHKラジオ「香山リカのココロの美容液」パーソナリティー。著書に「執着 生きづらさの正体」ほか多数。

「最後に正義は勝つ」と喜べないむなしさ

公開日: 更新日:

「新国立競技場 問題の真実」森本智之著

 新国立競技場の新しい建設計画が発表されてから、森喜朗氏があからさまにB案に肩入れしたなど相変わらず周辺はかまびすしいが、一般の人たちはもうすっかりシラけているのではないだろうか。総工費は約1500億円だそうだが、「前のプランより1000億お得」とか言われてもピンとこない。だいたい本当に旧国立競技場を解体する必要があったのだろうか。

 そのあたりのいきさつを東京新聞の記者が、今は風前の灯になりつつある“ジャーナリスト魂”で取材した渾身の一作が本書。全体の3分の2は、なぜ財政的にも現実的にも建設不可能なザハ・ハディド氏の案が採択されたのか、なぜ予算が膨大な額になったのか、なぜ異議を唱える市民団体や建築家の声が届かなかったのか、といったプロセスが細かく記されている。主な舞台は日本スポーツ振興センターだが、そこに無数の組織や個人の利権、思惑が絡んでおり、その身勝手さに正直言って読んでいるだけでイライラしてくる。

 ところが、事態が大きく動き出すのは今年の5月。下村文科相(当時)が舛添都知事を訪ね、唐突に競技場の計画がピンチに陥っていることを明らかにしたのだ。それから計画見直しまでのドキュメントが後半3分の1で描かれているのだが、前半とのコントラストが鮮やかでまさに映画を見ているよう。東京新聞も取材体制を拡大し、まさに総力戦で生き生きと取材を進めている様子が手に取るようにわかる。そしてついに、安倍首相が白紙撤回を表明したのだ。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動