「クローザー マリアノ・リベラ自伝」マリア・リベラ/ウェイン・コフィー著、金原瑞人/樋渡正人訳
中米パナマの小さな漁村に生まれたマリアノは子供のころから野球に親しんでいた。でも、道具は木の枝でつくったバット、漁網をきつく丸めたボール、牛乳パックでつくったグラブ。ハンク・アーロンもベーブ・ルースも知らなかった。
厳格な父親のもとで漁を手伝いながら、地元チームでプレーしていたマリアノの人生は、スカウトの目にとまったのをきっかけに一変。ドラフト外でニューヨーク・ヤンキースに入団し、英語がまったく話せないまま渡米する。
漁師か修理工になるはずだった若者は、どのようにしてメジャーリーガーになり、クローザーとして活躍し、守護神と呼ばれるまでになったのか。
2013年に引退した後、その半生を語り尽くし、この自伝を出版した。コントロールこそ天才的だが、球速は130キロ台で、球種はストレートだけ。監督に呼ばれたらマウンドに上がり、精いっぱい投げる。余計なことは考えない。野球に対する姿勢も、生き方もきわめてシンプル。
5年かかってメジャーに昇格後、練習中の偶然から、打者の手元で曲がる魔球「カットボール」を手に入れ、この1球種を武器に快進撃が始まる。通算セーブ数652はメジャー最多。5度のワールドシリーズ制覇の偉業も成し遂げた。
大きな存在になってからも謙虚さを失わず、決して慢心しない。常にチームメートを気遣い、ときに真摯に忠告する。敬虔なクリスチャンである彼は、マウンド上で祈る。
「主よ、私とチームメートをお守りください」
一人の男の成長物語として読めるが、チームメートたちとの関わりや試合運びなども詳細で、メジャーファンにはたまらない。
(作品社 1800円+税)