著者のコラム一覧
香山リカ精神科医・立教大学現代心理学部映像身体学科教授

1960年、北海道生まれ。東京医科大卒。NHKラジオ「香山リカのココロの美容液」パーソナリティー。著書に「執着 生きづらさの正体」ほか多数。

重度の自閉症者と精神科医との往復書簡

公開日: 更新日:

「社会の中で居場所を作る」東田直樹、山登敬之著

 東田直樹さんを知っているだろうか。テレビで見たことがある人もいるはずだが、「重度の自閉症」と診断されている彼は、ジャンプを繰り返したり奇声を発したりととにかく落ち着きがなく、独特のリズムで話すので対話もきわめてむずかしい。ところが、パソコンのキーボードのような文字盤を指さしながらつむぎ出す文章を読むと、きわめて理論的で情緒豊かな青年であることがわかる。ふだんはそれをうまく表現することができないだけなのだ。本書は、その東田さんと精神科医の山登氏の往復書簡をまとめたものだ。

 専門家を前にしても東田さんは一歩も下がることなく、自身の障害観、家族観などを語っていく。興味深いのは、周囲とうまくコミュニケーションが取れず常に疎外感を感じていた東田さんが救われたのは、友達ができたことではなく、「社会の一員として僕らしく生きて行こう」と決めたことだと語っているくだりだ。どんなにお金があってもラクをしたくても、人は社会の中に居場所がなければ、寂しくなる生き物なのだと知らされる。

 本書の最後についている東田さんへの質問集は、ホームレスを経験した「ビッグイシュー」誌の元販売員の問いに答えたもののようだ。それもとてもおもしろい。唐突に「ビッグイシュー」の話をしたが、本書の版元がその雑誌の出版社。ホームレスが雑誌を販売することにより、彼らに収入と仕事を生み出している。「女性は気軽に買ってくれるけど、ビジネスマンは我が身を重ね合わせるのか、目をそむけて販売員から去って行く」と同社の人が話してくれたことがあった。

 次に街角でビッグイシュー販売員を見かけたときは、ぜひお買い求めと「おつかれさん」のひとことを。誰もが社会の一員でありたい、と願っているのだから。(ビッグイシュー日本 1482円+税)


【連載】香山クリニックのしなやか本棚

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元グラドルだけじゃない!国民民主党・玉木雄一郎代表の政治生命を握る「もう一人の女」

  2. 2

    深田恭子「浮気破局」の深層…自らマリー・アントワネット生まれ変わり説も唱える“お姫様”気質

  3. 3

    火野正平さんが別れても不倫相手に恨まれなかったワケ 口説かれた女優が筆者に語った“納得の言動”

  4. 4

    粗製乱造のドラマ界は要リストラ!「坂の上の雲」「カムカムエヴリバディ」再放送を見て痛感

  5. 5

    東原亜希は「離婚しません」と堂々発言…佐々木希、仲間由紀恵ら“サレ妻”が不倫夫を捨てなかったワケ

  1. 6

    綾瀬はるか"深田恭子の悲劇"の二の舞か? 高畑充希&岡田将生の電撃婚で"ジェシーとの恋"は…

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    “令和の米騒動”は収束も…専門家が断言「コメを安く買える時代」が終わったワケ

  4. 9

    長澤まさみ&綾瀬はるか"共演NG説"を根底から覆す三谷幸喜監督の証言 2人をつないだ「ハンバーガー」

  5. 10

    東原亜希は"再構築"アピールも…井上康生の冴えぬ顔に心配される「夫婦関係」