重度の自閉症者と精神科医との往復書簡
「社会の中で居場所を作る」東田直樹、山登敬之著
東田直樹さんを知っているだろうか。テレビで見たことがある人もいるはずだが、「重度の自閉症」と診断されている彼は、ジャンプを繰り返したり奇声を発したりととにかく落ち着きがなく、独特のリズムで話すので対話もきわめてむずかしい。ところが、パソコンのキーボードのような文字盤を指さしながらつむぎ出す文章を読むと、きわめて理論的で情緒豊かな青年であることがわかる。ふだんはそれをうまく表現することができないだけなのだ。本書は、その東田さんと精神科医の山登氏の往復書簡をまとめたものだ。
専門家を前にしても東田さんは一歩も下がることなく、自身の障害観、家族観などを語っていく。興味深いのは、周囲とうまくコミュニケーションが取れず常に疎外感を感じていた東田さんが救われたのは、友達ができたことではなく、「社会の一員として僕らしく生きて行こう」と決めたことだと語っているくだりだ。どんなにお金があってもラクをしたくても、人は社会の中に居場所がなければ、寂しくなる生き物なのだと知らされる。
本書の最後についている東田さんへの質問集は、ホームレスを経験した「ビッグイシュー」誌の元販売員の問いに答えたもののようだ。それもとてもおもしろい。唐突に「ビッグイシュー」の話をしたが、本書の版元がその雑誌の出版社。ホームレスが雑誌を販売することにより、彼らに収入と仕事を生み出している。「女性は気軽に買ってくれるけど、ビジネスマンは我が身を重ね合わせるのか、目をそむけて販売員から去って行く」と同社の人が話してくれたことがあった。
次に街角でビッグイシュー販売員を見かけたときは、ぜひお買い求めと「おつかれさん」のひとことを。誰もが社会の一員でありたい、と願っているのだから。(ビッグイシュー日本 1482円+税)