「星はらはらと」太田治子著
言文一致体の小説「浮雲」で、明治の文学界に登場した二葉亭四迷。エリートであったにもかかわらず、時代の風潮に違和感を覚えて不器用に生きた男でもあった。本書は、そんな二葉亭四迷に魅せられた著者が彼の生きた道筋をたどりつつ、多くの男が立身出世を目指し、列強に負けない強い国へとひた走った明治という時代も浮き彫りにした評伝記だ。
元治元年に江戸・市谷で生まれてから、赴任地・ロシアからの帰国途中に肺結核で亡くなるまでの45年の人生は、どのようなものだったのか。エリート官吏の職になじめずに、まるで現代のフリーターのように生きた二葉亭の生き方を、「浮雲」の主人公・内海文三の優しくも要領の悪い生き方に重ねて追いかけていく。
日本とロシアが再び戦うことのないよう日露交流の懸け橋になろうと志したこと、文士として生きていく契機となった坪内逍遥との出会い、女性に対するナイーブすぎる態度などが次第に浮かび上がる。彼の下宿したロシア・サンクトペテルブルクのアパートにも実際に足を運んでおり、二葉亭が好きで仕方ないという著者の情熱が伝わってくる。(中日新聞社 1800円+税)