映画「ホース・マネー」 親愛と哀惜呼ぶ移民たちの世界

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 季節が暑さに向かい始めると、夜ふけの公園では仲間と騒ぐ若者たちと老いたホームレスの姿が目立つようになる。布団代わりの段ボールで寝入る姿になにか哀しい親しさを覚えるのは自分も老いたからだろうか。

 いま都内で公開中の「ホース・マネー」はそんな不思議な感情のわいてくる映画である。

 牢獄のような病院のような暗い階段を下りる半裸の老人。白いひげに黒い肌の彼はたえまなく手を震わせ、どうやら院内を徘徊しているのか看護師らしい男に連れ戻される。見舞客たちとの会話のはしばしから、彼が遠い昔に故郷の島を離れてポルトガルにやってきた移民であることがわかる。

 カーボベルデ。西アフリカ、セネガルの沖合にある小さな島嶼国家で、大航海時代にポルトガルによって植民地化された。いまでは独立したものの資源のないアフリカの常で、旧宗主国ポルトガルへの人口流出のため島は空っぽ。移民たちはリスボン市中、最貧のフォンタイーニャス地区に身を寄せ合ってきた。移民問題で身をすくめる最近の欧州だが、問題の根はヨーロッパ近代史の構造的な宿痾なのだ。

 監督のペドロ・コスタはドキュメンタリーと劇映画を手がけながら貧しい移民の世界に目を向けてきた映画人。安直な社会正義ではなく難解をきどるでもなく、貧しさを描きながら映像にはえもいわれぬ親愛と哀惜と美しさがある。

 思い出したのが野坂昭如著「骨餓身峠死人葛」(岩波書店 1000円+税)。どろどろの地獄絵図めいた小説ながら著者の哀惜と愛着が横たわる著者の代表作。〈生井英考〉

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