「おんなの城」安部龍太郎氏
依然として戦国時代は人気だ。歴史小説もドラマも、戦国の世が花盛り。勇猛果敢な武将、深謀遠慮の策士……、城と領土を巡る男たちの攻防戦には、やや食傷気味の声もある。
「城というと、非常に短絡的な男の死生観で描かれがちです。負けたら城主が切腹して終了、みたいな。有終の美として、美化するために辞世の句を詠んだりしてね。あれは、ほぼ捏造ですから(笑い)。ところが、女性はそうはいかない。城は生活の場であり、家族と血統を守る家です。切腹して終わりじゃない。英知の限りを尽くして、男たちとは別の戦いをしてきたはずです。それは、従来語られてきた戦国史とは、まったく別のものなんですよ」
本書では、女と城を巡る3つの物語を描いている。織田信長の叔母・珠子と美濃岩村城、畠山家側室・佐代と能登七尾城、そして来年の大河ドラマで主役となる井伊直虎と遠江井伊谷城だ。過去の長編作品と、現在手掛ける新聞小説のスピンアウト作品でもあるという。
「僕自身のテーマは『人がどう生きたか』なんです。喜怒哀楽の感情や生活実感は400年前も同じで、時代は違えど人間描写は変わらないと思っています。今回は、戦国時代の女性たちを描きましたが、彼女たちにとって、城は生活の場。家庭を守る平成の主婦と同じです。夫の会社が倒産して借金を背負ったら、あるいは夫が犯罪者になって、社会的な批判の矢面に立たされたら、家族の生活をどう守り抜くか。女の戦いは、今の世にも通ずるものがあると思いますよ」