「おんなの城」安部龍太郎氏
そう聞くと、勇ましい武将の活躍劇に飽きた人や、歴史小説に馴染めなかった人も入りやすい。
「そもそも、江戸時代の軍記物で描かれた戦国史観に引きずられすぎです。武士たちは、人身売買や強制労働など非道の行いで成り上がってきたわけです。ところが軍記物では人徳の持ち主だったから勝利した、ときれいごとを伝えた。さらに儒教史観も加わり、女性蔑視の思想も。『貞女は二夫にまみえず』が立派だと植え付けたのです。戦国時代の女性たちは闊達でアグレッシブだったはず。何度も嫁いで子を産んでも、女性が低く見られることはなかったのですから」
なんと、我々は為政者たちのつくりあげた美談に、まんまとだまされてきたということなのか。
「歴史教育の不備であり、犠牲者ですね(笑い)。いつの時代も、どの国でも、戦史教育ではそうならざるを得ない宿命を持っています。それにどう気づくか、教養と判断力を鍛えないと。小説にはその力がある。だから僕は書くんです。ある意味、戦っているんですよ」(文藝春秋 1400円+税)
▽あべ・りゅうたろう 1955年、福岡県生まれ。90年「血の日本史」でデビュー。戦国時代に生きた絵師・長谷川等伯を描いた「等伯」で第148回直木賞を受賞。「冬を待つ城」「維新の肖像」「姫神」「義貞の旗」などの小説のほか、城や史跡を巡る旅の随筆も執筆。現在は新聞連載小説「家康」を手掛ける。