夫より10年長く生きる妻のための相続対策
日本における男女の平均寿命差や夫婦の年齢差を考えると、夫が亡くなった後の妻には10年程度の人生が残ることになる。すると問題になってくるのが、妻の生活資金の確保。相続の進め方を一歩間違えると、困窮させる可能性もあるので注意が必要だ。
植田統著「妻のための相続とお金の話」(朝日新聞出版 1400円+税)では、夫亡き後に起こりやすい親族間の揉め事について、事例を挙げながら、相続の知識を分かりやすく解説していく。
妻がひとりになった後、持ち家がある場合に必要な生活費として、10年間分で3000万円程度は確保しておきたい。しかし、相続で資産が激減することもある。特に多いのが、妻が夫の資産を把握しておらず、相続による借金返済に苦しめられる例だ。
会社の借金の連帯保証、親や友人の借金の肩代わり、クレジット会社からの借り入れなど、個々では大金ではないものの、いくつかの負債を妻に内緒で抱えるサラリーマンは少なくない。これを妻が知らないまま、夫の財産全部の相続を受ける「単純承認」をしてしまうと、妻が借金返済を迫られることになる。専業主婦で十分な現金を持っていない場合は、子供たちの蓄えを切り崩さなければならないケースも考えられる。
遺産分割についても対策が必要だ。夫亡き後の法定相続人は、妻と子がいれば2分の1ずつとシンプルだが、子供がいない場合は妻及び夫の親、子供がおらず親が亡くなっている場合は妻及び夫の兄弟姉妹などと複雑になっていく。関係が良好ならばいいが、嫁と姑・小姑などの確執があると、特に不動産の価値を巡って争いになることが多い。
例えばマンションの場合、地方税の固定資産税計算のための価格である固定資産税評価額で評価されるのが一般的だ。しかし相続人同士が不仲で金額への不服があると、不動産鑑定士に依頼して、市場で取引される実勢価格を算定して裁判で争うなど、泥沼化しやすい。本書では、整理しておくべき資産の種類や相続人の確認作業などもレクチャー。妻の穏やかな老後のために、早めの準備をしておく必要がある。