小学生3人が行方不明に
「れんげ野原のまんなかで」森谷明子著 創元推理文庫 700円+税
【話題】現在、日本にある公共図書館・大学図書館の総数は約4700館。この他に小中高の学校図書館、各種専門図書館がある。大きさ、施設内容はさまざまだが、図書館にはどこか秘密めいた独特の雰囲気があり、そこにまた物語が生まれる。図書館を巡る物語が多いゆえんだ。地方の公共図書館を舞台にした本書は、そこに生起する事件を通して、図書館という不可思議な空間の魅力を描き出している。
【あらすじ】新人司書の今居文子はこの春から秋葉図書館に配属された。この図書館は郊外の人けのないススキ野原のど真ん中に立ち、交通の便も悪い。利用者も少なく、同館なら人気本でも借り手がいないだろうからと、他館から貸し出し要請が頻繁にくるという不名誉な評判を有している。おまけに近頃は、近くの小学校の男子児童たちによる「図書館居残り」を競うゲームがはやっていた。
館員の目をかいくぐって閉館後の図書館に残るというものだが、ある日、小学生3人が行方不明となる事件が発生。居残りゲームと関係があると思われたが、少年たちの行方と動機を見事に言い当てたのは文子の先輩、能勢だった。その後も能勢は、洋書絵本棚に不自然に並べられた洋書のタイトルの意味を解き明かしたり、偽の利用者登録と個人情報漏洩の関係を突き止めたりと名探偵ぶりを発揮する。そんな能勢に文子はいつしか引かれていく……。
【読みどころ】図書館が舞台だけに血なまぐさい事件は皆無と思いきや、最後の事件は過去のある人物の死にまつわる不穏な秘密が明かされていく。それでも、そこで採られた解決策はイキで、思わず笑みがこぼれる。また、本書に登場する粗筋のみ記された名作のタイトルを当てるのも、本好きの心をくすぐる。〈石〉