「水を石油に変える人」山本一生著

公開日: 更新日:

 昭和14年1月、海軍省の庁舎では「水からガソリンをつくる」という製造法の実証実験が行われていた。製造法の発見者は、本多維富という初老の詐欺師。大正末期に帝大教授を巻き込んだ「わらから真綿」事件を起こしていたこともあり、実験反対の意見も強かったものの、山本五十六の強い要望のもと実施されたという。

 本書は、防衛省防衛研究所の資料の中にあったマル秘扱いの文書「水ヲ主体トシ揮発油ヲ製造スルト称スル発明ノ実験ニ関スル顛末報告書」を契機に、太平洋戦争突入前夜の混乱期に暗躍した詐欺師の足跡をたどった近代史ノンフィクションだ。

 第1次世界大戦後、石油の重要性に気付いた政府のもとに、富士山麓に油田発見などの怪しい情報とともに「水からガソリン」発明の報が寄せられる。真珠湾攻撃の立役者だった山本五十六と、特攻の生みの親である大西瀧治郎が、なぜ詐欺師の片棒を担がされることになったのか、そのお粗末な茶番劇が見えてくる。

 (文藝春秋 1770円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    広末涼子容疑者は看護師に暴行で逮捕…心理学者・富田隆氏が分析する「奇行」のウラ

  2. 2

    広末涼子容疑者「きもちくしてくれて」不倫騒動から2年弱の逮捕劇…前夫が懸念していた“心が壊れるとき”

  3. 3

    中居正広氏《ジャニーと似てる》白髪姿で再注目!50代が20代に性加害で結婚匂わせのおぞましさ

  4. 4

    広末涼子は免許証不所持で事故?→看護師暴行で芸能活動自粛…そのときW不倫騒動の鳥羽周作氏は

  5. 5

    佐藤健は9年越しの“不倫示談”バラされトバッチリ…広末涼子所属事務所の完全否定から一転

  1. 6

    【い】井上忠夫(いのうえ・ただお)

  2. 7

    広末涼子“密着番組”を放送したフジテレビの間の悪さ…《怖いものなし》の制作姿勢に厳しい声 

  3. 8

    中居正広氏は元フジテレビ女性アナへの“性暴力”で引退…元TOKIO山口達也氏「何もしないなら帰れ」との違い

  4. 9

    大阪万博は開幕直前でも課題山積なのに危機感ゼロ!「赤字は心配ない」豪語に漂う超楽観主義

  5. 10

    カブス鈴木誠也「夏の強さ」を育んだ『巨人の星』さながら実父の仰天スパルタ野球教育